Bo Diddley ボ・ディドリー / Bo Diddley And Company

Hi-Fi-Record2009-11-27

The Cool School 92 飛んで火にいる


インターネットによる情報の共有が
今ほど密でもなかったころ、
パラッと開いた「Goldmine」に出ている店の広告なんかが
結構重要なものだった。


「Goldmine」とは
レコード・コレクターやディーラーのための専門紙で
タブロイドで毎月発行されている。


かつては
全米のレコード・ショーのスケジュールなどをチェックする手だては
これしかなかった。


かつて、といっても
つい5年ほど前まではの話だけど。


さらにそこに載っている
お店の広告も重要だった。
お金を払って広告を載せている店は
それだけ商売熱心だというわけだし、
なにより広告を出せるお金があるのだろうから。


その広告には2種類ある。
枠を買って
自分たちで用意したキャッチーなデザインを載せるもの。
もうひとつは
紙面の終盤に用意されている
全米選りすぐり名店集みたいなページに
文字情報だけ掲載するというもの。


わかりやすいのは前者だが、
燃えるのは後者。


住所と名前と
お店が用意した
「いいレコードたんまりありますぜ」的なキャッチコピーのみを
信じて出かける一種のバクチ。


実際に
成功した運試しだって結構ある。


しかし、
「付近の数州で一番の品揃え!」を謳った北の店では
大失敗をくらった。


「ひょっとして、あれ?」


着いたときにゾッとしたのは
まずその今にも倒れそうなあばら屋的外観。
中に入ると
雑然とした未整理レコードの山。
それでも何かありそうかと見始めたら、
店主がのこのこ出て来た。


「よく来たね」と言われるかと思いきや、
そっけない態度で
「5時で閉めるから、あと20分だぞ」と吐き捨てる。


おいおい、
あの広告の
愛想のいいキャッチフレーズはどこへ?


もっとも
そんな長居は必要なさそうなことは
すぐにぼくたちにもわかってきた。
だって、ちょっと見ただけで指先が真っ黒。
これはずいぶん長い間ほっとかれた商品だということを示している。


「やめよ!」


ひとこと言ってぼくは一枚も買わずに外に出た。
車に向かいながら深呼吸。
久々にくらった大ハズレで
気分転換する時間がほしかった。


飛んで火にいるレコード虫か……。


さすがに今は
あの広告を頼りに買付をしているひとも少なくなった。
ぼくたちだって
失敗の数は減った。


それでも
あのころがちょっと懐かしいのは何故だろう。


確かな情報と
売れる商品をかき集めるだけでは
どこかつまらないなと思うようなところが
どうやらぼくたちにはあるらしい。(この項おわり)


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ボ・ディドリーを
もう一度。


先日、
ボ・ディドリーを99年にNYで見たときのドラマーが
日本人だったとここに書いたら、
思いがけない反応をいただいた。


不確実な情報ながら
そのひとは
嶋田吉隆さんというドラマーではないかというのだ。


嶋田さんは90年代に渡米し
数々のR&B、ブルース系のミュージシャンと仕事をしていて、
その中にボとのツアーも含まれているらしいのだ。


それがぼくの見たライヴかどうかはわからない。
少し情報を足すと
そのドラマーはすごくかっこいいリーゼントをしていた。


嶋田さんの娘さんは
女性シンガーとして日本で活躍しているSoweluさんだということも
初めて知った。


実はぼくには
日本で嶋田さんのライヴを見たという記憶がある。
1989年ごろの遠藤賢司バンド、
そのときのドラマーが嶋田さんだったはずだ。


おぼろげな記憶と記憶の間に
ひとりの日本人ドラマーの輪郭が浮かび上がった。
おもしろいこともあるものだ。(松永良平


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