The Ventures ヴェンチャーズ / Go With The Ventures
中古レコード店の店主が教えてくれた警句を、またひとつ思い出した。
その店は、札幌にあった。繁華街のはずれの方にあって、おぼろげな記憶だが、たしか上部がガラスになっている引き戸が入り口になっていた。小さな店。
中に入ると店主が電話で話している。どうも先方はレコードを処分しようとしているらしく、それも放送局からの電話のようだった。
レコードを選んで会計を頼んだ。なんとなく興味深げに様子を耳にしていたことが伝わっていたからか、それともこちらが質問をしたからか、ほんの少し会話をする時間を持った。札幌の最近になって出来たレコード店の主人たちは、誰もが自分の店の客だったとか、その昔は東京のレコード社で働いていたとか、昔はお屋敷を訪ねてレコードと蓄音機を持参してお買い上げを頂いたとか、とりとめの無い話をするはずが、すこしづつ店主氏の来歴を聴くことになったように覚えている。なかでもはっきりと耳に残った一節があった。
それは「この商売は、とにかく細く永く続けるもの」という言葉だ。「細く」という表現が印象的だった。彼の言うところの"細く"というのは、過大な利益を得ようと思っては行けない、あるいは手広く派手なことをしてはいけない、つつましく商売をしろ、そういった内容だったと記憶する。この言葉が、ぼくの中に入った。有無を言わさず、それを信じた。
その時に買ったレコードは、ヴェンチャーズのライヴ・イン・ジャパン。日枝神社で撮影された写真がジャケの一部に使われた東芝の赤盤。
ハイファイでは扱っていないので、ほぼ同時期のアルバムを選んでおく。
翌日の夕方も店に行ったが、店内には灯りも点いておらず、引き戸の入り口は固くしまっていた。
その数年後に再び訪れた時には、店は廃業していた。
もう少し詳しく話を聞いておきたかった、と思う。(大江田信)