Shielry Horn シャーリー・ホーン / Travelin’ Light

Hi-Fi-Record2009-11-29

The Cool School 93 見るということ、見えるということ


買付で店に入るとき
ぼくたちの目は
最初はサーチライトになる。


大江田さんはフォークやハワイアンのレコードを目指して
狭い通路を進み、
ぼくはそれ以外のレコードを
今日はジャズからにしようかなどと考えながら
探し始める。


決してライトが明るいとは言えない店の中で
目を皿にしてレコードを見る。


ひとくちに見ると言っても、
それは珍しいレコードを探すための“見る”だけではない。


定番商品であっても
ジャケは汚れてないか、
盤に思いがけないキズはないか、
内袋や歌詞カードは入っているか、
とにかくそういうもろもろのすべてを一度に見るのだ。


サーチライトどころか
虫メガネが欲しいところだが、
そこまでしているヒマはない。
必要なのは
道具ではなく“その気”だと思っている。


さて
数時間かけて
そろそろお店の中を見終わったかなというところで
収穫を抱えてレジに向かう。


そのとき
レジから店の全体を眺め、
初めてぼくたちは俯瞰という視点を得る。


すると不思議なもので
サーチライトでくまなく探したはずの店内に
意外な見落とした場所があることに気がつくことがある。


この店には
イージーリスニングのコーナーはないと思ってたら
こんなところにあったよ!とか、
そういう例は一度や二度じゃない。


だから最近は
必ずレジからお店を振り返ることにしている。
どんな店であろうと
レジに立つ店員は
お店全体を見渡す必要があるからだ。


そろそろ会計が終ろうとしているときに
「またあった」
「またありました」と
往生際も悪くレコードを継ぎ足す。


ひと通りの仕事を終え、
深呼吸するように店内を見渡す。
意識的に見るだけでなく
無意識に見えるということ。


そういう状態でしか
見えてこないレコードというのも
やはりあるものなのだ。


東海岸のある店では、
こんなこともあった。


会計も終わりに近づき、
店全体も見渡した。
もうさすがに見落としはないなと思い、
店主に支払いをしたそのあとだ。


「ちょっと箱を探してくるよ」と
彼が席を外した瞬間、
あっと驚いた。


なんと彼の座っていた真後ろの壁に
ナッティ・スクワーレルズのファースト・アルバムが
ピカピカの状態で飾られていたのだ。


ジャズ・ミュージシャンのドン・エリオットと
放送作家サッシャ・バーランドが
ティーヴ・アレンのレーベル、ハノーヴァーで制作した
この素敵なムシ声ジャズ・スキャット・アルバムを
美品で見つけることは稀も稀なのだ。


うわー、
店主のうしろはとんだ盲点だった。


戻ってきた店主にそのことを告げると
「ごめんごめん、死角になってたとはね」と笑って
おまけに値引きまでしてくれた。


何てこった。
これからレジから店を振り返るだけじゃなくて、
「ちょっとレジから動いて見てくれる?」なんてことまで
頼まなくちゃいけないじゃないか!(この項おわり)


===================================


買付用に使っていた赤いトランク(2代目)が
この夏に壊れて以来、
いい赤を探している。


明るい赤、
茶色っぽい赤は
結構あるんだけど、
なかなか、これ!と思うものがない。


シャーリー・ホーンが
このジャケでいっぱい持ち運んでいるトランクは
すべて赤。


ちょっとピンクがかっているので
男のぼくにはどうかとも思うが
これもわるくない。


しばらくは以前に使っていた銀色のトランクで
我慢するしかないか。
は〜。(松永良平


試聴はこちらから。