ブリン・ハワース Bryn Howarth / Let The Days Go By

Hi-Fi-Record2009-12-08

The Cool School 97 帰ってほしいの その1


実はこれは前回とつづきのお話。


なじみのレコード店
店主が紹介してくれたディーラーの家に向かった。


落ち着いた住宅街にある比較的小さな家。
だが、小さいと感じたのは家屋だけで
裏庭には犬が気持ち良さげに走り回れる広い芝生と
レコードを収納したガレージがあった。


ガレージの中にあるのは
ざっと見渡して千〜二千枚といったところか。
プロのディーラーとしては多い数じゃない。


すでに仕事をリタイアして
レコードは楽しみを兼ねて扱っているのだと彼は言った。
若そうに見えるが
もうそんな歳なのか。


多少ほこりをかぶってはいるが、
逆に言うとレア度や値段にもあまり神経質ではない感じで
ざっくばらんな品揃えには
それなりの掘り出し物が期待出来た。


「ちょっと用事があって数分くらい出かけるから
 帰ってくるまで待っててくれるかな」


彼はそう言い残して
ブルルンと車でどこかへ行ってしまった。


ぼくたちは淡々と仕事をした。
結構な収穫もあり
あっという間に一時間ほどが経過した。


西海岸の気候は暖かいとは言え
この日は少し底冷えがしていて、
ひと通りレコードを見終えて興奮が醒めてきたぼくたちを
徐々に肉体的な寒気が襲いはじめた。


それにレコードには一切値段がついていなかったから
彼に値付けをしてもらう必要もある。


しかし、
数分で戻ると言っていたのに
ディーラーはまだ帰ってきた様子がない。
しびれをきらし
「ちょっとトイレに行きがてら様子を見てくるよ」と
大江田さんが母屋に向かった。


数分後、
青い顔をして大江田さんが戻ってきた。


「松永くん」


幽霊でも見たような顔だ。


どうしたんですかと訊くと
大江田さんはへなへなとテーブルにもたれかかった。


「たぶんお父さんだと思うんだけど、
 老人がさ、
 スーツを着たまま
 ソファーに寝てたんだよ」


それがどうしたと
いぶかしげな顔をするぼくに向かい
大江田さんは恐怖をぶちまけた。


「そのひと、
 ソファーにうつぶせになって動かないんだよ!
 あれ、ひょっとして亡くなってるんじゃないのかな!」


ええー? まさか?(この項つづく)


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青い空と青いセーター。
秋から春にかけての
よく晴れた淡い一日の気持ちよさを
一枚の構図で表現したこのジャケが昔から好きだ。


一般的なイメージで言えば
ロック・ミュージシャン然とした部分がないのかもしれないが、
少しさみしい日なたぼっことでもいうような感覚が
実はロックを豊かに支えていることを
ぼくはこういうアルバムから知った。


ジャケを見るだけで
思わず「ありがとう」と言いたくなるアルバムだ。(松永良平


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