The Osmonds オズモンズ / The Osmonds

Hi-Fi-Record2009-12-13

The Cool School 99 帰ってほしいの その3


ディーラーの家の裏庭で
ガレージの中のレコードを見せてもらっているうちに
「ちょっと出かけてくる」と言い残していなくなった彼が
まだまだ帰ってこない。


様子を見に母屋に向かうと
父親と思しき老人が
ソファーでうつぶせに寝ていたり
立ち上がって窓際にいたりして
ぼくと大江田さんを震え上がらせていた。


以上、前2回のあらすじ。


「松永くん、さっきもらった彼の携帯番号に電話してくれない?」
「いやです」
「なんで?」
「電話で英語話すのが苦手なんです」
「なんでだよ、普段は結構しゃべってるじゃないか!」
「面と向かって話すのと電話とでは違うんですよ」
「お願いだよ」
「前にピザを頼んだときも全然別のピザ屋に別のメニューを頼んじゃったでしょ?」
「でも、あのとき結局ピザは来たじゃないか!」
「いやだったらいやなんです!」


子どものけんかみたいになってきた。


ついに根負けして
いやいやながら電話をかけることになった。
ぼくは電話で英語を話すのが本当に苦手なのだ。


呼び出し音が一回、二回、三回……。


「出ません」
「なんで?」
「番号が違うのかも」
「母屋に行って、お父さんに訊いてきてよ」
「えー?」
「あのお父さん、大丈夫ですか?」
「そんなの知らないよ。でも起き上がってたんでしょ?」
「でもその前は寝てたんでしょ? うつぶせで?」


ふたりとも完全におじけづいていた。


状況はすっかり膠着していたが、
とりあえずもう一回トイレに行ってくると大江田さんは言い、
母屋に向かった。


数分後、
戻ってきた大江田さんが戸口に立つなり言った。


「もうすぐ彼は戻ってくるよ」


その口ぶりが予知能力者みたいに
あまりに確信に満ちていたので
逆にあやしく思えた。
さっきからこの家には
妙にホラーじみたオーラが渦巻いている。


「戻ってくると言ったら戻ってくるんだ」


うわー、ついに大江田さんも何かに取り憑かれちゃったんじゃないか。
確信に満ちた目をして一歩一歩入ってきた大江田さんをおそれて
思わずじりじりと後ずさりをしてしまった。


そのときだった。
「いやー、ごめんごめん遅くなっちゃって」
軽快な足音とともにディーラーが帰ってきた。


帰ってきた!
本当だった!
大江田さんは
もののけに取り憑かれていなかった!


「ほらあ! だから言っただろ! 何で信じないんだよ!」


やけに明るい声がガレージの中で反響した。
実はトイレに行ったときに
大江田さんはお父さんにあいさつをして、
そのときに「息子はまだ帰ってこんのか?」という話になっていたのだ。
耳はちょっと不自由だが
まだまだカクシャクとしている父親は
携帯で息子を呼び出し
「このジェントルマンたちがお待ちかねだぞ」とせかしてくれたらしい。


ジェントルマンだなんて申し訳ない。
さっきまでぼくたちはあなたのことを
死体だゾンビだと言い合っていたんですよ。


取引が成立し
車に乗り込んでからも
「どうして信じなかったんだよ!」と
大江田さんはしばらくぷんぷんしていて
ぼくはと言えば思い出し笑いが止まらなかった。(この項おわり)


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「帰ってほしいの」は
ごぞんじジャクソン・ファイヴのデビュー・ヒット
「アイ・ウォント・ユー・バック」の邦題。


この曲のライバルというか
雰囲気もろパクリで制作されたのが
オズモンズの「ワン・バッド・アップル」。


単なるパクリに終わっていないのは
バックをつとめるマッスル・ショールズのリズム・セクションの
素晴らしさのおかげもあるかもね。(松永良平


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