Tom Ardolino トム・アルドリーノ / Unknown Brain

Hi-Fi-Record2009-12-27

The Cool School 105 抜け目の無いひと


大きなレコード・ショーで
懐かしい顔に再会した。


東海岸で営む比較的大きな店を営んでいたのだが
奥様を亡くしたとか
いろいろな事情が重なって
経営からの引退を決めた元店主だった。


引退して店を人手にわたしたとは言え、
彼の顔と集盤力で持っていた店だ。
新しい店主をヘルプする意味もあって
今でも店に商品を卸しているのだと言う。


「元気か!」と
アメリカ人にしては小さな顔をくしゃくしゃにして
うれしそうにあいさつをしてくれた。


小さないたずらっ子が
そのまま老人になったような顔。
ビジネスマンとしての抜け目のなさも持っているけれど
「いいから持ってけ」的な面倒見の良さもあって。


彼が座っていたショーの一画は
かつての彼の店が出していたテーブルで
横には現在の店主が立っている。


一見、
話のわかる男ふうの立ち振る舞いをしているが、
「あいつになってからあの店はダメになってる」とは
大江田さんの厳しい評だ。


メインのレアな商品供給は
前の店主が担当している部分もあって
相変わらず鋭いところを仕入れているなと思う。
だが確かに
彼になってから変わったことはいくつかある。


整然としていたレコードのストック棚が
何だかやたらに散らかり始めている。
話しかけてくれるのはいいんだが、
レコードの話がうまく噛み合わない。
ディスカウントの幅も
ぐっとシブチンになった。


レコードの値段を
インターネットで調べることぐらいは
世界中の店でやってることだが、
それがお客さんにまる見えなのも
なんだか間抜けだなと思う。


それでいて
本人はいたって訳知り顔で
抜け目のない店主を演じているのが
大江田さんの気に障るらしいのだ。


一番いけないことは
彼に代わってから
定休日では無い日に
突然店をお休みにしているパターンが増えたこと。


「こないだ来たのに休みだったよ」なんて言っても
「うちは定休日は変えてないんだがね」と知らぬ存ぜぬを決め込む。


実はいい加減、新しい店主には愛想が尽きかけていて
その店にはあまり行かなくなっていたところだったのだ。


だからよけいに
昔の店主に会えたのがうれしくて
そのショーでは
いつもより余分に買い込んだ。


会計を終えると
真っ先に手を出して握手を求めてきたのも
昔の店主の方。
現店主はヨーロッパ人らしいコレクターに
一生懸命レコードを売りつけようとしていた。


おじさん、
ヨーロッパのコレクターと熱心に商談するのも良いけど、
この生きる教科書からもっとたくさん学ばないと。


本当の意味での抜け目が無いってのは
ずる賢いとかじゃなくてさ、
たぶん、
見えないところに気がつくってことだから。(この項おわり)


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トム・アルドリーノの「ブレイン・ロック」
再入荷しました。


今回は
以前にトムに書いてもらった直筆サインが
ハイファイの家捜しで出てきたので
限定数ですが先着数名様にそちらをお付けします!(松永良平


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