小西康陽 / これからの人生。

Hi-Fi-Record2010-01-04

The Cool School 106 デッドヘッズ残影


ドアを開けて中に入ると
ぷ〜んと香ってくる瞑想的な香り。


お香だ。


レコードを扱っている限り、
レコード屋”を名乗るのは自由だ。


だけどこの店、
なかなかレコードにたどり着かない。
その替わりにぼくたちを出迎えるのは
お香の匂いと
つり下げられた絞り染めのだぶだぶTシャツ、
40年近く前のコンサートを告知するポスターのレプリカ、
そして頭頂部が薄くなった長髪とひげとグラサンの店員と……。


グレートフル・デッドのツアーを
バイクで、バンで、あいのりで
一年中追いかけ回している
熱狂的なアメリカ人ファンの集団を“デッドヘッズ”という。


その数は数万とも言われ、
アメリカの全土に
デッドヘッズのためのこうしたショップが点在している。


デッドヘッズのための店は、
デッドを愛する連中が
つかれたからだや心をやすめるために
オアシスのようにしてアメリカ中に存在する。


つまり店の存在する分布図が
彼らの愛が溢れ出て
さまよい出してしまった広さと深さを証明する
地図でもある。


しかし残念ながら
買付の対象としてはまったく役に立たない。
お情け程度に置いてあるレコードだって
実に適当で乱雑というか
これは悪い意味で言う”ロック的”な態度で扱われている感じがする。


いったい今まで
「レコード売ってます」の誘い文句にだまされて、
そんなデッドヘッズのための店に
何軒立ち寄ってしまっただろう。


ところが
最近、デッドヘッズの店に対する気持ちが
すこし変わってきた。


星の行方を追うようにして
好きなものを求めてあちらこちらと
自分のからだを動かして旅をし続ける
デッドヘッズのやみくもな情熱を肯定したいと
今は強く思うのだ。


2010年1月1日からスタートした
レディメイドの新レーベルreadymade-v.i.c.ウェブサイトの
リレー・コラム連載「レコード手帖。」の第一回で
フカミマドカさんが書かれていたことにも
その思いは通じていると勝手に思っている。


デッドヘッズの残影を愛おしく見る。


「いったいきみたちはいつまで
 あちこちでレコードなんて買い続けるのかね?」という
問いかけへと同じ意味でもある。(この項おわり)


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あけましておめでとうございます。
本年もハイファイ・レコード・ストア
よろしくご愛顧お願いいたします。


ご好評をいただいております年越しプレゼント
小西康陽さん選曲のCD-R「これからの人生。」ですが、
おかげさまで予定枚数の半数を超えました。


まだまだ余裕はありますが、
限定数でのプレゼントですので
お早めにどうぞ。


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では本日も
夜9時に更新です。(松永良平


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