ローリング・リリー / リリー婦人の7分半ピアノロール

Hi-Fi-Record2010-01-13

The Cool School 108 神様とネット・オークション


西海岸に住む
太っちょの愛すべきレコード店主エリック。


彼のことは今まで何度か書いているが
今日の主役は彼じゃない。


書きたいのは
エリックと食事をしているときに
彼がしゃべったふとしたこと。


「知ってるか。
 最近じゃ
 あの通りにあるサルヴェーション・アーミーは
 eBayでものを売ってるらしいぞ」


そう言って彼は笑い、
ぼくたちも笑った。


アメリカ社会の中〜下層において
生活の根幹をなすのは
実はそうした救世軍文化の存在だ。


家から出た不要なものを
週末にヤードセールやガレージセールで売るのもいいけれど、
面倒くさいから教会に寄付する。
家の前に置いておくと
やがてそれは神の名において集荷され、
困った民に激安で販売される。
その利益は従業員の給料と
あとは教会への寄付だ。


そういう仕入れ値ゼロの品物を置いているのが
スリフト・ストアであり
サルヴェーション・アーミー。


日本からツアーでやって来たバンドが
昼飯どきに駐車場に停めておいた車から
強盗に着替えの入ったトランクやらを奪い去られてしまい、
それでも途方に暮れずにツアーを続けることが出来たのは
スリフト・ストアですべてを買いそろえることが出来たからだという
ウソみたいなホントの話を聞いたことがある。


ぼくたちレコード屋
古着屋さんも
かつては全米に無数に存在するスリフトをこまめにまわって
かなりの収穫を得ていた。


エリックの話を聞くと
確かに思いあたるフシはあった。


近年、
スリフトでレコードに関して良い思いをする機会は
どんどん減っている。


近隣のディーラーたちが
毎日くまなく新着をチェックして
良いものがあったら引っこ抜いて
ネットオークションにかけている。
それは事実だ。


どうやら
販売する側も
その転売システムで生まれる利益に
気がつきだしたということらしい。


どうせなら高く売って収益を多く得た方が
神様のためになる。
そういうことなのかな?


果てることのない欲望や煩悩が
神様のためになる世界、
それって両方にとって良い世界だとでも
思っているのかな?


この話を
笑いとばしていいのかわからないなと
スリフト・ストアの前を通るたびに
ぼくはむにゃむにゃと考えてしまう。(この項おわり)


===================================


昨日までちょっと遅めの帰省をしていた。


車の中で
兄夫婦の子供(4年生)と一緒にいたときに
ラグタイム風のピアノがカーステから流れ出した。


そのときに
ピアノを習っている甥っ子は
メロディを奏でる右手ではなくて
ベースとなるリズムを弾く左手の旋律をハミングしていた。


そうか、
“習う”っていう体験は
こういうふうに出てくるのかと思った。


そして
そのラグタイム風の曲というのが
このCDに入っていた「君の瞳に恋してる」の
工夫の効いたナイスなカヴァーなのだった。


今度、
甥っ子に買って渡してみようかと思っているところ。(松永良平


試聴はこちらから。