Sonny Forriest ソニー・フォリエスト / Tuff Pickin’

Hi-Fi-Record2010-01-15

The Cool School 109 What's this?


9.11以降、
アメリカに出入国する外国人に対する
検問が厳しくなったことはご存じだろう。


入国する際の質問も
ずいぶんとねちねちとシビアな時期があった。


オバマ政権になって以来、
気のせいか
その質問攻めが少し和らいだ印象だったのだが
年末にテロ未遂があったから
また今年は厳しくなってしまうかもしれない。


アメリカ国内の飛行機移動に関しては
検問こそないものの
手荷物をX線でスキャンするスクリーニングは
必ず行なわれる。


大江田さんは
睡眠時に呼吸を補助する医療器具を
常に携帯しているから
一時期はそれがよくこのスクリーニングで引っかかった。


「What's this?」


検査が始まると
ぼくたちがそれに手を触れることは一切許されない。


ぼくがたまにやられるのは
機内用トランクに入れておいた
ポータブル・プレイヤー。


「What's this?」


見た目は怖くても
実は結構若い世代が多い係官たちには
レコード・プレイヤーのことが
よくわからないひとたちも少なくない。


明らかに安っぽいプレイヤーを
まるで危険物のように
こわごわと触るシーンには
笑ってはいけないと思っても
つい頬がゆるむ。


そう言えば
あるときこんなことがあった。


最近はめったに買付ではSP盤は買わないのだが、
素晴らしいコンディションの
オールド・ハワイアンが
分厚い紙で作られたアルバム形式で買えたときのことだ。


SP盤は割れやすいから
これは手持ちで大事に持っていきましょうと決めて
手提げ袋に入れて持ち運んでいた。


そのまま空港に移動し、
スクリーニングの順番が来たので
慎重にベルトコンベアに乗せた。


すると案の定、
見慣れない物体だということで
チェックが入った。


「What's this?」


大きな図体をした黒人の係員が
キッとこちらを睨みつけながら
問いただした。


やましいところもないので
「これは78回転盤のレコードで、
 60年くらい昔のものだ」と答えた。


するとどうだ。
「お〜う」と彼は短い声を漏らし、
急に態度が丁寧になった。


「念のためにあらためさせてもらうよ」と
袋から取り出しこそしたものの、
あとはまるで貴婦人をエスコートするように
ゆっくりとおだやかに収め直してくれた。


「すごいな」


何がすごいのかわからないが、
褒められた感じだったので「サンキュウ」と答えた。


たぶん
自分たちには価値はわからなくても
古いアメリカのレコードを
ぼくたちが敬意を持って扱っているということが
自分のおじいさんが褒められたような気がして
彼は何となくうれしかったのではないだろうか。


まあ実際のところはわからないけど
勝手にそう合点して
ぼくはその日一日気分がよかった。(この項おわり)


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今、
ハイファイで新入荷に出ているコースターズのLP。
もしお近くまでおいでの際は
是非そのジャケの色つやを見てほしい。


本当に鮮やかな写真なのだ。
メンバーたちの表情も
活き活きと輝いている。


向かって一番右端で
うつむき加減にギターを持っているのが
このソニー・フォリエストだと思う。


軽く振り上げた右手で
次の瞬間に弾くのは
どれほど鋭い音なんだろう。


そして
その先の瞬間の音が
実際にアルバムまるごと入っているのが
このアルバムなのだ。


しびれるしかない。(松永良平


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