Martin Denny マーティン・デニー / The Versatile Martin Denny

Hi-Fi-Record2010-01-17

The Cool School 110 オブスキュアの正体


初めて買付に出向いた店で
「おまえたちはどういうのを買うのだ?」と訊かれて
答える文句はだいたい決まっていた。


「オブスキュア(よくわからないもの)なレコード」


だが、
よく考えてみれば
それはあくまで結果論なのだ。
何十枚かのレコードを
ぼくたち独自の基準で選び出して
それを相手が見て初めて
「買ってる基準がよくわからないなあ=オブスキュアだなあ」と言うのであって、
最初から“よくわからないこと”を物差しに買っているのではないのだ。


だからと言って
「ポップやジャズ、イージーリスニング、そしてロックだ」と
答えるだけでも正解ではない。


いったいどういう風に説明するのが
一番簡単で
かつ的確なんだろう?


その難問に
去年答えを出してくれた店主がいた。


西海岸の海のそばで彼が営む店は
オブスキュアでありたいと願うぼくたちの精神を
ひときわ強く刺激してくれる品揃えをしている。


かつて大江田さんが初めてその店を訪れたとき
「ん? おまえの顔、どこかで見たことあるぞ」と言われ、
からかわれているのかと思いきや
店主がごそごそと引っ張りだしたのが
モンド・ミュージック2」だったという。


その日も
ぼくたちはいつものように
店内をくまなく物色していた。


収穫は上々。
値段のついてないレコードも多いので
最後は店主がじきじきに値付けをしてくれる。


値付けをひととおり進めながら
店主は感じ入ったように
自分に言い聞かせた。


「そうなんだよ。
 結局おまえたちが探しているのは
 マーティン・デニーのようで
 マーティン・デニーそのものではないものだよな。
 パーシー・フェイスのようで
 パーシー・フェイスそのものでもない。
 そういうことなんだよ。
 単にオブスキュアなだけじゃないんだ。
 やっとわかったよ」


それを聞きながら
逆にぼくの方が
「そう言えばよかったのか!
 やっとわかったよ!」と
彼に握手して感謝したいくらいだった。


ただしこの説明、
マーティン・デニー
パーシー・フェイスもわからない店だと
通用しないのが難点だけど。(この項おわり)


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マーティン・デニーのようで
マーティン・デニーではない、
と言いつつ、
マーティン・デニーも買付する。


ただし
ちょっと違うマーティン・デニー
やっぱり好き。


このアルバム、
デニーらしくないラウンジ・ジャズ中心で
かつては軽視していたんだけど
この意外性が今はたまらない。


ラウンジDJでかけたら
「おっ」と振り向かれる曲ばかりだと思う。
ほんとです。(松永良平


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