Bodacious D.F. ボダシャス・D.F. / Bodacious D.F.

Hi-Fi-Record2010-01-19

The Cool School 111 Drivin' Me Crazy


買付に行くときは
だいたいこの街に行けば
これぐらいの日程で
何枚ぐらいは買えるだろうと目星をつけてゆく。


だが、
不幸にも当てがはずれてしまうときもある。
まいった、不作だ、日にちが余った。


ある年の秋深いころ、
あと一日を残してもう回る店も尽きたぼくたちは
途方に暮れていた。


思い切って骨休めにするか
それとも……。


そのときだった。
大江田さんが思いがけない街の名前を口にした。
その街は
今いる場所から車で4時間ほど北にあり、
一軒だがレコード屋もあると聞いたことがある。


交通の便もわるいし
冬は大雪の降るあたりだから
日本人で行ったことのあるディーラーはまずいないだろう。


明日は午前中に買付けたレコードを発送しなくてはならないから
泊まりとはいかない。
往復8時間はタフだが、どうする?


そう問いかけてきた大江田さんに
ぼくは何の躊躇もせず答えた。


「行きましょうよ!
 運転中はぼくも頑張って起きて大江田さんを助けますよ!」


かくして
良いものがあるかどうかもわからない
ただ一軒の店のために
ぼくたちは車で繰り出した。


そして
結果から言えば
わざわざ出向いたのは正解だった。
決して広い店ではないので大漁とは言えないまでも
日本人ディーラー、
あるいは日本人の好みを知ったディーラーが
この店を訪れた形跡は
少なくとも過去数年は無かった。


貴重なローカル・レコードや
素敵なシンガー・ソングライターのレコードが
手つかずで眠っていた。


質の高い買物をして大満足だったが
店を出たときは
もうくらくなっていた。


その北の街は
ある理不尽な殺人事件をテーマにした映画に
街の名前そのものが使われて
90年代に有名になったところだった。


だが
ぼくたちにとって本当の理不尽の始まりは
その街を出てからだった。


あれほど自信満々に起きていますと宣言した
この助手席のあんぽんたん
グースカと大睡眠に入ったからだった。


睡魔と疲れで運転はふらふらで
何とか助手席の男の目を覚まそうと話しかけても
「んが?」「ぬな?」と
生返事をするばかりで
頑として起きることがなかったという……。


あとになって大江田さんは
「あのときほど危険なドライブをした経験はないね」と
今でもぼくに対して繰り返す。


ぼくをいましめるために使われる
最強の呪文のひとつだ。(この項おわり)


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「Drivin' Me Crazy」とは
ドライブ中のことを曲にしたわけじゃ全然ないけど、
なんとなくこの話にタイトルがぴったりな感じがして
選んでみました。


大江田さんの心境は
これほどグルーヴィーじゃなかっただろうなあ。(松永良平


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