Heaven Bound With Tony Scotti / Same

Hi-Fi-Record2010-01-21

 アルバムの冒頭に収録されているのが「500マイル」。
 この歌のことについては、一度書いたことがある。


 これは惜別の歌なのだとして、「汽車に乗って離れて行く放浪の定めの『私』が、『あなた』への惜別を歌う。『私』が移動して、『あなた』ががとどまる。積極的な者の方が、惜別の思いが強い」とした。


 しかしヘヴン・バウンドが歌う「500マイル」には、「惜別」などという重たい感情は、微塵もない。


 思いもかけぬ遠い所へ転校して行くことになった共学のハイスクールの女子生徒から、「明日、見送り来てね、絶対よ!」と声をかけられて。
 「あたしの乗る汽車の見送りに遅れたら、あとでとっても悲しい気分になるわよ」と声をかけられた男の子は、「とんでもないよ、必ず見送りに行くよ」と固く約束をしたものの、駅に着いた時にはもう汽車は発車したあと。
 なんだ、あいつ、来なかったじゃないかと口を尖らしながら、走ってきた線路を振り返っている女の子。いつだって気が強いはずの彼女が、密かに目に涙をたたえている。
 みたいな気分。


 青春の香りがする「500マイル」。
 こんな風景を想わせる「500マイル」は、ほかには無い気がする。
 素敵だ。(大江田 信)


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