Dr. John ドクター・ジョン / In The Right Place

Hi-Fi-Record2010-01-26

The Cool School 114 Right Place, Right Time


ダメな店の話を
今までもいくつかしてきた。


アメリカのレコード屋に行けば
どこでも必ず何かしら買うものがある……とは
残念ながら言い切れなくて、
むなしく店を後にすることだって決して少なくないのだ。


たとえば、
いっぱい数はあって値段も安いのだが、
レコードは段ボールに無造作につっこんであるだけで
コンディションにもまるで気を配った形跡がない店とか。


これじゃ買付には使えない店だな
ということになる。


ただし
そういう店であっても
ぼくたちの買付にとって縁がないだけで
つぶれずに生き残っている理由はある。


たとえ傷だらけのレコードや
ジャケットのないレコードでも
子どものお小遣い程度で買えるのなら
駄菓子ならぬ駄レコードとしての需要はあるはずだ。


かつてヒップホップのDJたちがサンプリングで作っていたトラックが
あんなにも針のノイズがバチバチと入っているものだったのは
彼らがそういう店で
文字通りネタを掘り出していたからだろう。


アメリカ人がよく言う
「Right Place, Right Time」ということわざ。


良い時に良い場所にいなくては
運をつかめないぞという警句だが、
この「Right」は
「良い」というよりもむしろ
「正しい」とか「適正な」という意味合いが強い言葉で、
単純に「良い環境」とか「良い時代」を指しているわけではない。


むしろ
荒んだ街にある
まるで買付には向かないように傍目には見える店も、
アメリカの音楽の未来を変えた少年たちが
かつてそこにいて
今もまだそういう世代に対してレコードを供給しているのだとしたら
正しい場所と正しい時代をつかんでいたということになる。


その店の持つ本当の価値を
見抜けていないのは
ぼくたちの方なのかもしれない。


もちろん
現実には
そんな評価をするにも値しない店だってあるけれど、
だんだんと
安くて汚い方の
ダメな店をばっさりと切って捨て去れなくなってきた。


何年も買付に行くうちに
ぼくの中に芽生えた
不思議な共感のひとつだ。(この項おわり)


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名盤「ガンボ」に続くこのアルバムで
ドクター・ジョンが歌ったタイトル曲。


まさに
「Right Place, Right Time」が歌のテーマと思いきや、
よく聴けば、
この歌では主人公は「Wrong Time(間違った時代)」にいるという。


店を開いた場所はよかったんだが
時代を間違えた。


そういうレコード屋も確かにあるな。


今も健在のドクター・ジョン
何とかそのいましめを免れたというわけか。(松永良平


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