Nilsson ニルソン / Sandman

Hi-Fi-Record2010-02-04

The Cool School 117 Shoplifting


前回書いた
周囲に愛されながらも惜しくも閉店した店について
その街にある別のレコード屋でも評判を聞いた。


「いい店だったけど
 ショップリフティングに悩んでいたんだよ。
 なにしろ店員までやってたっていうんだから」


そう言って
店主は顔を悲しそうにしかめた。


ショップリフティングとは
聞き慣れない英語だが
ぼくたちのような商売には多いに関係がある言葉だ。


直訳してしまうと
「店を持ち上げる」だから、
地盤の変動か何かで
建物が浮き上がってしまって営業が困難になった、
なんて想像をしてしまうひとがいるかもしれないが、
そんな天変地異はそう簡単には起こらない。


ずばり
ショップリフティングとは
「万引き」のことなのだ。


思い返せば
かつて初めて訪れたニューヨークのレコード屋
一番驚いたことは
レコードジャケットの中に
一枚もレコードが入っていないことだった。


もちろん
万引き防止のためだった。


20年前のニューヨークは治安も悪く、
万引きが横行していた。
タワー・レコードの入り口にも
からだの大きなバウンサー(用心棒)が立っていたのを覚えている。


時代が変わって
CDが主流になると
同じように店頭には
CDのケースだけが並んだ。


もっとも最近は
CDの価値が暴落しているから
わざわざ手間をかけて保護しているような店も減ってはいるが、
別の面から見れば、
万引きの対象になるくらい価値のあるものを売っていないわけだから
お店そのものも立ちいかなくなってきているとも言える。


ショップリフティングが減ったという現象にも
表と裏があるのだ。


そして
「万引きが多くて」と言っていたその店主も
実はお店そのものの経営が難しくなっていたことを隠したくて
万引きのせいにして周囲に話していたのではないかと
すこしだけせつなく思った。(この項おわり)


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こないだ友人と話していて
ニルソンのアルバムでどれが一番好きかという話題になった。


ふたりで
「ハリー」や「空中バレエ」など
初期のアルバムを挙げつつ、
70年代後半の
すこし勢いが失速したニルソンにも
捨て難い味わいがあることで意見が一致した。


そのとき友人が
思い出したように
サンドマン」を忘れちゃいかんと言い出した。


その理由は裏ジャケにある。


彼はカニ料理が大好きで
このアルバムの裏ジャケで
ニルソンは巨大なカニのえじきになっているからだった。(松永良平


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