Bob Crewe ボブ・クリュー / Motivation

Hi-Fi-Record2010-02-07

The Cool School 119 地下には夢がある


それは何だか異様な光景だった。


それなりにレアな商品が揃っているのに
決してにぎわっているとは言えない店。
洋の東西を問わず、
そういうタイプの店は存在する。


アメリカの北部で
やる気のあるんだかないんだかわからない調子で
商売を続けているこの店に来ると
いつも複雑な気分になった。


それがどうだ。
この日はどんどんお客が入ってくる。


だがおかしなことに
彼らは店に入ってくると
ぼくたちが見ているレコードには目もくれず
一目散に店の奥へと向かい、
階段をどすどすと下に降りてゆくのだ。


これじゃまるで
ここが店じゃなくて何かの通り道みたいじゃないか。


いったいこの店の地下に何があるんだろう?
ぼくらに内緒でバーゲンセールでもやっているの?


店番のあんちゃんが
あくびを噛み殺しながら教えてくれた(この態度が店が流行らない一因でもある)。


「地下を貸したんだよ。
 今、この下は別のレコード屋なんだ」


じゃ、あとでチェックしなくちゃと
色めき立ったぼくたちに
あくび男は捨て台詞のようにして付け加えた。


「ただし、メタル専門店だけどな。
 買うものなんかないよ」


そうだったのか。
だからさっきから地下の店にやってくるお客は
一階のレコードには目もくれなかったのだ。


確かに地下では
ぼくたちが買うものはないだろう。
でもぼくは彼らがみんな
とてもうれしそうな顔をして階段を降りていったのを見ていた。


地下には彼らの夢がある。
それは少なくとも
閑古鳥が鳴いているこの地上にはない何かだ。


あのときその笑顔の現場を
確かめておくべきだった。
しばらくしてその街を訪れると
そこにあったはずの店はもうなくなっていた。


あの地下の店、
一階の店の巻き添えをくう前に
無事に地下から抜け出して
今もどこかで営業を続けていることを願う。


もちろん
どこかに生き延びていたとしても
ぼくたちが買付に行くことは決してないんだろうけどね。(この項おわり)


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こないだようやく
フォー・シーズンスの物語りを舞台化した
ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」を見た。


英文パンフレットをぱらぱらとめくっていたら
ボブ・クリューのクレジットを見つけた。


そこには、はっきりと「作詞家」とだけ書かれていた。


意外と日本のポップス・ファンでも
プロデューサーとしての経歴の華やかさは知っていても、
彼に音楽的な成功をもたらしたのが
フォー・シーズンスの名曲の作詞であったと
理解しているひとは少ないかもしれない。


もっと驚いたのは
舞台に登場するクリューのキャラクターが
はっきりゲイだとわかるものになっていたことだ。


その事実がどうこうというのではなく
それをあそこまでオープンに描いているということが
ショックだった。
彼はまだ存命のはずだからね。


ジャージー・ボーイズ」を見て
ぼくの中で印象が深まったのは
主役であるフォー・シーズンスではなく
むしろ脇役に過ぎないボブ・クリューという人物だ。


そんなことを考えながら
今日の夕方
店でこのレコードを聴いた。(松永良平


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