Kenny Rankin ケニー・ランキン / After the Roses

Hi-Fi-Record2010-02-11

 このところ仕事でオールディーズを聴く機会が多い。オールディーズとイージーリスニングを繰り返し聞いている。


 日本で独自にヒットした洋楽を聴き、同時にアメリカのヒット・チャートを引っくり返して聴く。


 聴いているのはだいたいが1960年代前後のポップス、いいかえれば昭和35年前後の音楽ということになるのだが、こうして西暦か和暦かで言い方を違えてみると、微妙に受ける感じが違うように思う。1960年代とすると欧米に軸足を置いた感じになり、昭和35年前後と言うと音楽を受容した日本の側に軸足を置いた感じというか。


 ふと思った事のひとつが、あるときからヒット・チャートがロックに大きく席巻されるようになっても、ロックではない音楽が死に絶える事無く引き継がれていることだ。
 確かに1955年あたりを境に、ロックはポピュラー音楽の主流になった。ロックがブルースやジャズを取り込むようになったし、レコード会社はだんだんとロック以外の音楽に投資をしなくなる。
 そうした状況になっても、すべてがロックにはならない。


 簡単に言ってしまえば、1955年以降のポピュラー音楽には、ロックかロックではないかという視点が立てられるのではないかと思ったのだ。
 ロックの道を歩むのか、歩まないのか。ロックに脇目を振るのか、振らないのか。
 ミュージシャンは、そうした無言の問いに、彼の音楽の中で知らず知らずのうちに答えを出しているに違いない。
 ケニー・ランキンのアルバムを聴きながら、そんなことを考えた。


 ケニー・ランキンの主眼はロックには無かった。
 繰り返し、このアルバムを聞きながら思ったことだ。
 ケニー・ランキンを動かしていたものは、ストリングス・オーケストラをバックにしたふくよかな40年代の音楽の記憶ではないか。
 彼は時代のトレンドとは並走しなかった。その独自感が、このアルバムを唯一無二のものとしていると思う。(大江田信)


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