Chad Mitchell チャド・ミッチェル / Himself

Hi-Fi-Record2010-02-10

 チャド・ミッチェルは、ハリー・ベラフォンテに見いだされて、カーネギーホールのステージに立ったグループ、チャド・ミッチェル・トリオの一員だ。 1959年のこと。彼自身の名前が関されているのだから、一員という表現が当らないかもしれない。その後、フォークの黎明期に大活躍することとなるバンドの中心人物だった。


 自らは楽器を持たずコーラスに専念するというそのスタイルは、弾き語りがほとんどだった当時のフォーク界でも、とてもユニークだった。伴奏者の一員に、のちにバーズを結成するロジャー・マッギンが加わっているというエピソードも楽しい。
 彼がトリオを抜けた後に加わったのがジョン・デンバーであり、マイケル・ジョンソン。その頃にはグループ名が、ミッチェル・トリオと変わっている。


 これはチャド・ミッチェルがグループを抜けて、ソロとなったファースト・アルバム。
 フォークの意匠を伴っているからと耳を傾けないのは、とっても損。またひとつ、そんなレコードに出会った。


 ガット・ギターがジャジィなコード・ハーモニーを添える「Quiet Room」の素晴らしさに加え、おっと息をのんだのが斬新なリズム・アレンジが加えられた「Over The Rainbow」。
 リヴィングストン・テイラーのアルバム「Over The Rainbow」を思い出しつつ、シンガー・ソングライター・タイプのアーチストがアコースティックなサウンドと共に採り上げる、ディズニー・ソングがいいと改めて気づく。


 こうしてつぶやくような歌唱から、歌詞の意味するところがより深く伝わってくる気がする。チャド・ミッチェル自身が、オリジナルのジュディ・ガーランドが歌う「Over The Rainbow」を、幼年時にどこかで耳にしていたと考えておかしくない。長く心に留め置いてきた歌が、そっと吐き出されることで、優れて批評になっていると思う。(大江田 信)