Chris Montez クリス・モンテス / Call Me

Hi-Fi-Record2010-02-21

The Cool School 125 クール・スクール・イン・ジャパン その4


入店当日のきびしいしつけ(?)はあったものの、
その夜に親しくなったCさんの助けもあって
何とかお店でアルバイトを続けてゆく希望をぼくは見つけた。


とは言え、
そんなことはお店で働く他のひとたちには関係のないことで
ひんやりとした空気はまだ数日続いた。


BさんやCさん以外に
ようやく打ち解けて話を出来るひとが現れたのは
一週間もしたころだっただろうか。


冷静になって先輩たちを見てみると
ぼくと同い年くらいの学生さんもいたし
女性だっていた。


今と決定的に違うなと感じるのは
当時はすごく歳上に見えた社員やバイトの先輩も
せいぜい20代後半ぐらいの年齢だったということだ。


1980年代、
30代以上のひとたちは
今よりもずっとおとなでしっかりしているように見えた。


単純に言って
30歳を超えてバイトで食いつなぐ職種として
レコード屋は考えられていなかったということだろう。
ぼくに厳しいしつけをしていた社員さん(仮にDさん)も
ずいぶんこわいひとに思えたが
まだ30歳にはなっていないという話だった。


ぼくが入社して一ヶ月もしないうちに
Dさんがお店を辞めるらしいという話が持ち上がった。


ぼくはDさんとどうしても打ち解けることが出来ず、
結局まともに話をする機会はなかった。


もっともそれはぼくだけではなかったらしく
似たような境遇のアルバイトは実は結構いたということを
Dさんが辞めるころになってヒソヒソ話で耳にした。


厳しいひとだったし
頑固で短気だということは普段の勤務ぶりからも伝わってきた。
筋金入りのブルース・ファンで
チェス・レコードのカタログはソラで番号を言えるという話もあった。


ぼくは不思議と「せいせいした」というような気持ちにはならなかった。
むしろもったいないなと思っていた。


レコードをめぐる世界に
ああいう親分肌というか職人気質のひとがいるということを
直感的に大切に思ったからかもしれない。(この項つづく)


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先日見えたお客さんと話していたら
斉藤清六みたいなひとが歌う『コール・ミー』が好きで」という話になり、
それはクリス・モンテスでしょうと言ったら
心底驚いた顔をされた。


ふたりの見立ては
完璧に一致していたのだった。


斉藤清六というたとえ、
30歳以下のひとにはもう難しいかもしれない。(松永良平


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