Rod McKuen ロッド・マッケン / Very Warm

Hi-Fi-Record2010-02-23

The Cool School 126 クール・スクール・イン・ジャパン その5


ぼくが働いていた店は4階建て。
その内訳は
1階が邦楽(当時はまだJ-POPなる言葉が無かった)
2階が洋楽
3階がジャズ
4階が中古品だった。


経験の浅いアルバイトであるぼくは
その日ごとに
人数の足りないフロアに入るというシフトで動いていた。


ところが
なかなか4階のシフトが回ってこない。


本音を言えば
ぼくが働きたいのは最初から4階だった。
知らない時代の見たこともないレコードをさわり、
そして聴く。
そのために選んだバイトなのだから
中古でないと意味がないとすら考えていた。


しかし
毎日さまざまなお客さんの持ち込むレコードやCDを
次々に査定してゆく4階の仕事は
経験と実績がものを言うようわけので、
ぼくにはまだアピール出来る材料が何もなかった。


働き始めてひと月ほど経ったころ、
ついに4階からお呼びがかかった。


ただしそれは
昼休みの休憩時間に人手が一時的に足りなくなるので
カウンターで受付業務をするというもの。


買取の持ち込みがあれば受付をして
レコードの枚数を数えて
奥にいる買取担当のひと(Eさんとしておく)に渡す。
内容と枚数と、そのときの査定待ちのレコードの溜まり具合を見て
「30分で」とか「1時間半で」とEさんがぼくに言い渡す。
ぼくはそれをお客さんに「3時半ごろになります」と告げる。


当時、
4階には担当社員はいなくて
長くバイトを続けているEさんがフロアを仕切っていた。


昼休みの間の臨時勤務だから
時間にしたら一時間もないのだが、
ぼくとしてはその短い間に何としても
「こいつ、4階で使えるやつかもな」
と思わせるアピールをしなくてはならない。


出来ることは何だろう?


●店頭BGMにちょっと通好みなものをかける。
●買取レコードを渡すときに「ロック中心です」とか「レアなのあります」とか
 何となくひとことを添える。
●Eさんがヒマそうにしていたらなるべく話しかける。
●気が利くやつだと思われるためにキビキビ動く。


我ながら涙ぐましいアピールを考えていたのだが
実際には一時間で出来ることは限られていた。


なかなか4階にたどりつけない日々が続いていたが、
やがて思わぬかたちで
その幸運はぼくの前に転がり落ちてきた。


前回書いた
厳しい社員のDさんが辞めたあと、
社員さんがもうひとり辞めることになった。
そのひとは
Dさんに日ごろから私淑していたこともあり、
張り合いをなくしてしまったのか
Dさんを追うようにして自分も転職することを決めたのだ。


短い間に社員がふたり辞めたこともあって
バイトも含めたフロアの人員配置換えが行なわれ、
棚ぼた式にぼくは4階を担当することになった。


何回か昼の助っ人で働いたときの作戦が
功を奏したのかどうかはわからない。


ただ、
バイトの契約更新のときに
店長にこう言ったのは覚えている。


「これからはほとんどフルタイムで働くようにします」


88年、大学2年の春が始まるところだった。(この項つづく)


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ロッド・マッケンを
意識的にたくさん仕入れている店になってみようと思った。


そう思ってから2年くらい経つ。


いろいろ聴いてみて
深く印象に残っているのは
自分のレーベルであるスタニヤンを立ち上げた直後の
プライベート感の強いソロ作品群。


そして
50年代にリバティやデッカでレコーディングした
まだ声のあまりかすれていない時代の
若いロッド・マッケンだ。


50年代の録音を集めたこのアルバムのタイトル曲
「ヴェリー・ウォーム」の
心にすっと忍び込んでくる不思議な力の強さには
ちょっとやそっとじゃ逆らえない。


今日みたいな
春めいてきた冬の一日には
なおさらそうだ。(松永良平


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