Alfred Apaka アルフレッド・アパカ / Broadway Wears A Lei

Hi-Fi-Record2010-03-06

 日曜日の朝、起きたばかりのパジャマのまま、ぼんやりとテレビから流れる「題名のない音楽会」を見る。1月の末のこと。


 ソプラノ歌手の小林沙羅サンが、シュトラウスオペレッタを歌っている。バリバリのクラシック歌手、バックを演奏するのは、神奈川フィル。こちらもクラシックの演奏家達だ。小林サンは美しい声だなとか、ずいぶんと表情豊かに歌うものだなとか、ごく当たり前の陳腐な感想を持ちながら歌声を聴いている。
 もっと正直に言ってしまえば、いかにも鑑賞然とした態度をとっていて、決して身を乗り出して聞いていた訳ではない。


 それが小林沙織サンが歌うマイフェアレディの「踊り明かそう」が流れてきた時には、思わず身を乗り出した。テレビの画面に見入った。そして最後の最後、両手を開き歌声を大きく伸ばすコーダ部分では、いささかグッときた。


 この時点で彼女が日本の現代詩に関心を持っているとか、松本隆サンと仕事をしたことがあるソプラノ歌手とか、そんなことは全く知らない。
 しばらくあとになってご本人のプロフィールを読んだり、ブログを見たりして得た、あと出しジャンケン的な知識だ。


 どうして彼女の「踊り明かそう」に、こんなに心が動かされたのだろうかと、そんな疑問ともつかない気持ちが頭の隅っこに残った。
 華奢で小柄で美しい小林沙織サンが熱唱する様が素晴らしかったからか、自分がそもそも「踊り明かそう」が好きだからか、さすがレナード・バーンスタインの音楽には現代的なリズムの鼓動があるからか。


 さっきまで聞いていたシュトラウスのワルツと同じ人が歌っているのに、さっきはいかにも冷ややかに聞いていたくせに、いまさらこんなに感動するなんて、我ながら現金なものだと思い、おや、もしかしてこれってミュージカルが好きなことの証なのか?と、しばらくしてから、ふと思った。
 まさか、ボクはミュージカルが好きだったのか?


 この話には続きがある。
 今日のところは、アフレッド・アパカの「踊り明かそう」を紹介して稿を終わりに。


 アルフレッド・アパカは、不幸にも早世したハワイアン専門のシンガーと思われているが、実はハリウッドに進出したいという気持ちを、ずっと抱えていたと聞く。
 ミュージカル・タイプの作品歌唱を片面に集めたこのアルバムには、彼の見果てぬ夢が投影されているのかもしれない。
 また、タイトルがいい。(大江田信)


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