The Ray Charles Singers / Spring, Spring, Spring

Hi-Fi-Record2010-03-30

The Cool School 141 彼のくせ


買付の途中で知り合ったディーラーの家に
行くことになった。


話しているうちに
大江田さんが首をかしげて
どうも相手の顔をどこかで見たことがある気がすると言い出した。


すると
ディーラーも何かを思い出したようで
「おれは何年か前まで近所でレコード屋を開けてたんだ」と白状した。


その店名を聞いて
ぼくも大江田さんも興奮した。


小さいけれど
センスがよくておもしろい品揃えのその店に
ぼくたちは結構お世話になっていて
ひと知れずに閉店したと聞いて悲しい思いをしていたからだ。


その店の主人は地元のミュージシャンで
音楽の仕事で店を空けていることが多かった。
だからぼくたちが顔を見ても
すぐにはピンとこなかったのだ。


「おれはジャズ・ベーシストで
 こないだはサニー・マレイと共演したんだ」


小さなクラブの多いこの街で
ミュージシャンとしても彼は忙しくやっているらしい。
だが
レコードを売る快感も忘れられず
今でもネットと個人相手の商売は続けている。


ミュージシャンが気にかけるレコードは
いつもおもしろい。
彼らは耳のセンスがよいから
変わった音楽に反応する。


だが、
レコード屋としては気にかけた方がいいはずの
コレクタブルな商品であるとか
コンディションの良さを
ないがしろにしてしまう傾向もある。


そのわけを彼はこう説明した。


「ジャズのレコードも結構あるよ。
 でも盤質はあんまりよくないかもしれない。
 そういうのはスルーすべきなんだろうけど、
 ついつい音がおもしろいのを優先してしまうんだ」


なるほど
彼のジャズ棚には
見たこともないような
不思議なサウンドのアルバムがちらほらと見受けられた。
ただし、このコンディションじゃ
買付にはならないけど。


でも、
カタログ的な価値ではなく
耳を信じて選ばれたレコードが揃っている棚を見るのは
いつだってとてもいい気分なのだ。


まるでそのひとのくせを
味わっているような気がする。
彼のくせは
お店をやっていたころとほとんど変わっていなかった。


きっと彼の弾くベースも
彼らしいくせのついた
おもしろい音がするだろう。(この項おわり)


===================================


ここ数日の寒さは
異常だった。


渋谷の桜も
思わず縮こまってしまいそうだったけど
今日は春もカムバック。


というわけで
春のうれしさを込めて
「春、春、春」なアルバムを品出ししてみました。(松永良平


試聴はこちらから。