Werner Muller And His Orchestra / On Broadway

Hi-Fi-Record2010-04-03

 あいかわらずウェルナー・ミューラーを聞き続けている毎日。
 聞いているうちに気がつくことがいくつもあって、あれやこれや音源をひっくり返しながら並べ聞いたり。


 このところのささやかな発見は、「Mack The Knife」にテイクがふたつあることがわかって、それもアルバム「On Broadway」に収録されているヴァージョンが遥かにいいことだ。


 もうひとつのテイクが収録されているのは、アルバム「Germany」。世界の各地を音楽で周遊するHolidayシリーズ(ウェルナー・ミューラーがポリドールに在籍していた50年代に大ヒットしたシリーズ企画)と同種の企画主旨になっているためか、アレンジにはやや観光地巡りな色合いがある。


 それに比べて「On Broadway」の方はというと、ポピュラー音楽としての醍醐味が遥かに勝る。どこからかやってきて、どこかに去って行くようなイントロとエンディングの効果、曲中に一貫して流れるフィンガー・スナッピンの音色など、アレンジにミュージカルの出演者の動きが反映されているようだ。思わず舞台の様子を想像させられる。もしかすると、それはウェルナー・ミューラーの頭の中に架空に構築されたステージ演出ではないかと、ふと思ったりもする。


 これ、最初から最後まで聞かなければ、ちょっと楽しみが伝わらない仕掛けになっている。ぜひとも手に取って聞いてもらいたいもの。
 同じ曲を2回、それもアレンジを変えて吹き込んでいるポップス・オーケストラ作品の例は、他にもある。気がつくたびに思うのだが、編曲をする際には、作家はどんなことを考えながら作業に当たるのだろう。


 「Mack The Knife」は、イージーリスニング系のポップス・オーケストラだったら、必ずと言っていいほどに取り上げる定番曲。あまた多いカバーの中でも、その軽妙さと言う点ではベスト・ワンではないかと思うくらい気に入っている。(大江田 信)



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