Buellgrass ブエルグラス / Big Day At Ojai
10年以上も前に、何回か買付に出向いた街。
数回ほど足を運んだのちに、なんとなく気が向かなくなって、その後に何年にもわたって出向かなくなった街。このところそんな街に、出かけることにしている。
この10年程の間に、レコード店のありさまが大変に変わって来ていることを痛感したからだ。
10年前から元気に続いている店。
10年前の生彩がまったく無い店。
ここ数年に誕生した新しい店。
店に一歩足を踏み込むと、まずはこうして見えてくる。
もちろん楽しいのは「ここ数年に誕生した新しい店」の品揃えから見えてくる、膨大なアメリカン・ミュージックのストックに切り込む新たな視線である事は間違いない。
品揃えとは良く言ったもので、とあるレコードが一枚ポツンと置かれている場合と、その周囲のアルバムと併せて置かれて演出されているのとでは、手の伸び方も違うと言うものだ。
さっきの店では手を出しもしなかったアルバムに、今度の店では思わず出が出る。それと言うのも、品揃えから見えてくる評価の仕方に興味を抱いてのこと。そんなことが起こる店は、やっぱりいい店なのだ。こちらも元気になる。
それと同時に、ぼくが密かに楽しいのは、「10年前から元気に続いている店」を、忘れた頃になって再度訪問することだ。
同じはずの店がまったく違って見えるのは、こちらが変わったということもあるのだろう。かつては興味を引かなかったレコードが、とても魅力的に見える。
そしてなお元気に生きながらえている店には、街の音楽好きたちと一緒に生きて呼吸している空気がある。
そんなことを考えながら、ストックを一枚一枚引っくり返すのがなにより楽しい。
このアルバム、昔からの店だったら「ブルーグラス」のコーナーにあってもおかしく無い。ブルーグラスの亜種として聞く事も出来る内容だからだ。
今回、見つけたのは「ブルーグラス」のコーナーではなかった。カウンターまで持って行ったぼくに向って、若き店主はリーダー格のBuell Neidlingerの名前とBluegrassを併せてもじった「Buellgrass」のタイトルを見て、ぷっと笑って「面白いタイトルだよね」と笑った。
おそらくエリントンやセロニアス・モンクやらチャーリー・パーカーの作家クレジットが並んでいるこのアルバムを、ジャズの一枚として聞いていたのだろう。
「何だって、ブルーグラスをもじったんだって? 今気付いたよ、へえ、面白いねえ」といった風だった。
水が変わると水中の同じ石も違う色を放つ。
そんなレコードが面白いし、そんな演出をしてくれる店が楽しい。(大江田信)
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