Erik Darling エリック・ダーリン / Erik Darling

Hi-Fi-Record2010-04-08

 昨日の続き。


 ぼくが密かに楽しいのは、「10年前から元気に続いている店」を、忘れた頃になって再度訪問することだ。
 もちろん懐かしいという気持ちもある。
 レコードを扱うという仕事をする者同士、海を隔てた遥かなる仲間として、健闘を称えたいという気持ちあるのかもしれない。
 それと同時にレコード屋を始めてここに至るうちに、自分がどんな風に変わってきたのかを、あらためて確認する時間を持つことが出来るからだろうとも思う。


 確かに昔に比べて、聴いたことがあるレコードの数は相当に増えた。
 レコード屋に入ってボクが必ず見るフォークのコーナーについていえば、今では聴いたことのないレコードを見いだすことの方が珍しい。もちろん見知らぬレコードがあれば、必ずや試聴をする。ジャケットが表現している気分や雰囲気、記されたクレジット、時代、録音された場所などの情報を見るうちにおおよその内容を想像する。ただし必ずしも、予想が当たるとは限らないし、なにより気持ちよく裏切られる時ほど楽しい時間は無い。


 そうした経験を持つうちに気づくのは、「10年前から元気に続いている店」は、実は懐かしさのみに立脚してレコードがそろえられ、価値が添えられている店ではないということだ。どこかで、今の時代の空気を呼吸している。
 それがはっきりとわかるのが、フォークのコーナーでもある。元気な店のフォークのコーナーは、おもしろい。決して死んでいない。


 このレコードは、とある元気な店の一角にあった。
 フォークのクラシックと言っていいアルバムだと同時に、オルタナな感性でフォークを採り上げようとするアーチストには、今も興味深い音楽を投げかける作品だとボクは思う。
 フォークに対する立場の取り方というか、距離というか。フォークのど真ん中に身を深く沈める確かな音楽感性が響いていると同時に、どこかしら批評的な覚めた感性が働いているというか。
 クラシックにしてオルタナ。ボクにとって、そんな数少ないアルバムの一つでもある。
 ボク自身がフォークをこんな風にとらえるようになったのは、最近になってのことだが、恐らく懐かしさのみでフォークを扱う店のストックだけを見ている自分だったら、こうはならなかっただろう。



 このレコード、とにかく元気な店のフォークのコーナーにあった。もちろん相当に久しぶりに出会った驚きもあるが、なにしろそれが嬉しかった。今を生きる音楽の一つとして、客の手に取られる出会いを待っているように見えたのだった。(大江田信)



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