Peter Nero ピーター・ネロ / Career Girls

Hi-Fi-Record2010-04-09

The Cool School 146 西陽とイチロー


ハイウェイを変なところで降りて
一本道を延々と進む。


ハイウェイが国の血管として発達しているアメリカでも
都市がかならずその近くにあるとは限らない。


出口を降りて見つけた標識に
目当ての街まで数十キロなんて書いてあったことは
一度や二度じゃない。


しかし
ありがたいことに
たいていその道は一本道だった。


太い動脈から伸びた毛細血管は
街を経済と交通で動かすために
よけいな寄り道をしないように出来ているのだと思う。


とは言え、
その道すがらに
あまりに何もないようだと
進んでいるこっちも不安になってくる。


ホントにこの先にレコード屋はあるのか?
いや、ホントに街があるのかすら疑わしくなってくる。


目当てにしていた店で
思いがけず収穫に恵まれなかったその初夏の日、
ちぎったイエローページを見ていた大江田さんが
この先のはずれに一軒店があるようだぞと言い出したのは
午後もう遅い時間だった。


何時までやっているのかわからないけど
この季節、アメリカの日暮れは
平気で夜8時をまわる。


駄目もとで行ってみようということになった。


20キロぐらいは走っただろうか。
草むらと電柱だけの景色が不意に途切れて
小さな街が出現した。


メインストリートが2ブロックもないくらいのひなびた街に
確かにレコード屋はあった。
と言っても
売っているのはレコードだけではなくて
古本や古着も売っていて
その薄暗い片隅にレコードが置かれていたように記憶している。


値段は安いが
あまり大事に扱われていないらしく
なんだかどのレコードも汚れてくたびれていた。


わざわざ来たんだからと
2、3枚ほど選んで
あまり冴えない気分で街を後にした。


帰りは同じ一本道を
強い西陽に向って進んだ。


FMの電波が弱くて
AMを点けると
シアトル・マリナーズの試合を中継していた。


イチローが出ているかもねと
しばらく聴いていたら
これはダブルヘッダーの二試合目で
イチローはこの試合は欠場して休養に宛てたというような意味のことを
アナウンサーがしゃべっていた。


書きながら思い出したが
そうか、
これはイチローが大リーグに来た一年目の話で
それはぼくが買付に来るようになった一年目でもあった。
ぼくとイチローは同級生だったんだ。


で、結局この話は
何かあるかと思って道をはずれてみたが
残念ながら何も起きなかった、
ただそれだけの話。
だが、
ぼくたちの買付は
実はそういうことの積み重ねでもある。


もっと言えばこれは
買えないときに
どうモチベーションを保つかという話でもある。


今でも
レコードがの収穫があんまりないときには
あの強い西陽と
イチローの欠場のことを何故か思い出すのだ。(この項おわり)


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ピーター・ネロが
働く女性たちのために数々の名曲を捧げたアルバム。


電話交換手に宛てた「スピーク・ロウ」
ウェイトレスに宛てた「ア・サートゥン・スマイル」
家庭の主婦には「モスト・ビューティフル・ガール・イン・ザ・ワールド」と
いちいち洒落ている。


しかし、
ぼくは気がついた。


このアルバムのテーマは
そのフェミニストなんかではない。


美男子ピーター・ネロは
つまりこの世のあらゆる働く女性たちを
我がものにしようとしてるってことだよ。


つまり
みんながメロメロになっちゃうほどの
色男だよってことだよ。


ああ腹立つ。
それほど、いいレコードです。(松永良平


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