Vikki Carr ヴィッキー・カー / Nashville By Carr

Hi-Fi-Record2010-04-12

The Cool School 147 BAG AT COUNTER


買付で知らない街の知らない店に来た。


いったいここには
どんなレコードが
どれくらいの枚数で
どういうふうに売られているのだろうか。


高鳴る鼓動を抑えられない。
足早に車を降り、
入り口のドアを開け、
レコードの売り場はどこかを目視で確認し、
「あそこだ!」と見切ったら
さっと駆け出す。


そのとき
うしろからぼくを呼び止める声がする。


振り返ると
カウンターの店員が
指を上に上げて「こっちこっち」と合図をしていた。


あーあ、
またこれか。


その合図の意味は
とっくにわかっているのだ。
肩にかけていたカバンをはずし
ほらよ、と店員に手渡した。


彼はでかい洗濯バサミをカバンに取り付けると
番号の書かれた札をぼくに手渡した。
カウンターをよく見ると
目立つところにでかでかと貼り紙があった。


大文字で書かれたその文字は
「BAG AT COUNTER(バッグはカウンターに預けろ)」。


つまりそれは
この店が
万引きを警戒しているぞというアナウンスでもある。


勢いをそがれたことに
「ちぇっ、やな感じ」とくやしさを表明しながら
ぼくは店の奥に向かう。


かつてはそういう光景は
頻繁にあった。


ところが
最近はそういう風景がゆるやかに減ってきつつある。


もはや音楽ソフトは万引きまでして投機する対象になりにくいのだろう。
たぶんそういうことは
盗人たちが一番最初に気がつくものだ。


そういう意味では
今でもなお「BAG AT COUNTER」を主張し続けている店は
万引きを警戒するほどCDやレコードが売れて
大繁盛していますよと
アナウンスしているようなものなのかもしれない。
ぼくはそう考えることにした。


カバンを預けさせるということは
この店が生きてるということの表明だと思え。
期待の芽を膨らませろ。


だから
ぼくはカバンを預けると
今は全速力でレコードを見に行く。
そのダッシュ
昔より早いかもしれない。(この項おわり)


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今日は東京は寒い雨。


「雨に濡れても」にはいくつも素敵なヴァージョンがあるが
個人的にはこのヴィッキー・カーの歌は
相当上位に入る。


息が白いくらいの季節に
本当は一番似合うのだけれど、
今日の春の雨は寒いから
ちょうどいいかもしれない。(松永良平


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