Tony Mottola トニー・モトーラ / Mr. Big

Hi-Fi-Record2010-04-13

The Cool School 148 魔法の通路


いわゆる旧市街と呼ばれる
19世紀末から20世紀初頭の古いビルが建ち並ぶ一画に
その店はあるのだと教わった。


外からは本屋にしか見えないが
中に入るとレコード屋があるのだという。


ふるびたレンガ作りのビルの中に
木製のドアを引き開けて入る。
いきなりぎょっとした。


入るとすぐに
板張りのちょっとしたスペースがあって
長椅子やロッキングチェアに腰掛けて
老人やおとなたちが熱心に本を読みふけっていたからだ。


室内には
年季の入った本の匂いが立ちこめていた。


ここで売っている本には
ただものではない歴史と品格と
ついでに値段もついているのだろうなあと想像がついた。


しかし肝心のレコード屋はどこにあるのだろう。


不安そうにきょろきょろしていたら
読書していたお客さんのひとりが教えてくれた。
「そこに下に降りる階段があるよ」


見ると広間の右奥に
確かに下に降りる階段があり
「Records Downstairs」という貼り紙も確認できた。


おそるおそると下に降りると
強めの照明が当たり
いきなり景色が変わった。


レコード屋だ……」


アナログ中心の品揃えで
ヒップホップやレアグルーヴにも力を入れていた。
BGMは上の階に遠慮して控えめな音量だったが
オルタナなロック・サウンドが流れていた。


正直言って
あまり買うものはなかったが
由緒と風格を持つ古本屋の下に
それとは真逆の若々しいレコード屋があるという構図に
ぼくは心をくすぐられた。


何年かして
その店が地下から脱出して
近所の一階に店を構えたという報せを受け取った。


ひさびさに訪れてみると
店舗面積も広くなっていて
レコードも増えていた。


でも何だろう?
何だかドキドキしない。


あの古本屋の風景からのアクセスという
魅力の源泉をこの店が手放してしまったせいなのだろうか?


レコード屋にとって
“魔法の通路”も
大事なツールなのだと
そのときぼくは思い知ったのだった。(この項おわり)


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“ミスター・ビッグ”と名乗るくらいだから
トニー・モトーラは大きなひとだったのだろうか。


スタン・ケントンはとても背の高いひとだったと
テリー・アダムスはぼくに教えてくれたことがある。


生年月日はWikipediaではわかっても
楽家の図体については
なかなかくわしいことはわからない。
見てきたひと
会ってきたひとの勝ちなのだ。


この山高帽もトニー・モトーラの
トレードマークだったのだろうか?
“ミスター・ビッグ”だもの。
ひょっとして実物大?


ジャケを手に取って
頭に合わせてみた。


と、と、とてつもなくでかい!


この謎は
もうすこし先に取っておくとする。(松永良平


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