Roger Nichols And The Small Circle Of Friends

Hi-Fi-Record2010-04-20

The Cool School 151 壁


その店の壁に並ぶレコードの傾向が
すこし変化し始めたと気づいたのは
いつごろだっただろうか。


長年、
日米を問わず
レコード屋の壁を守ってきたようなレコードがある。


たとえば
ビートルズの“ブッチャー・カヴァー”なんかは
その典型だ(ハイファイにはないけれど)。


アメリカでは
KISSの人気が根強いから
70年代に発売された各メンバーのピクチャーディスクなんてのも
よく見かける。


総じて強いのは
50年代のドゥーワップやブルース、ロックンロール、
それからモダン・ジャズのオリジナル・プレス。
とりわけ黒人層に愛されたレコードのオリジナルは
きれいに残っていること自体が奇跡だ。


それらの他にも
60年代のマイナー・サイケ、
70年代のヘヴィー・ファンク、
20世紀の電子音楽
いわゆるレアグルーヴと呼ばれるものなどなど、
ぼくたちが見てきた壁のレコードとは
だいたいそういうものだった。


何年か前、
ぼくたちが仲良くしている西海岸の店を訪れたとき
なんだか空気が変わったふうに思えた。


物腰のやわらかい店主のいでたちや
お店の内装は変わってない。
ただ何か確実に空気の流れが変わったような気がする。


どこが変わったのかと思い
カウンターのうしろの壁レコードを見ると
その空気の出どころがわかった。


壁のレコードが変わっているのだ。
かつて幅を利かせていたレアなオールディーズが減り、
代わりに増えているのが
ソニック・ユースやフレイミング・リップスの稀少盤、
ホワイト・ストライプスのプロモ盤といった
現代のロックシーンで重要と位置づけられるバンドのアナログ盤だった。


店主に訊くと
こういう新種の中古レコードは
実は店の売れ筋の大きな部分を占めていて
徐々に変化してきていたんだという答えだった。


レア盤がレアでなくなったわけではないし、
新しく壁に加わったレコードを
絶対的にあがめたてるわけでもない。


レコードの世界における気分の流れが変わってきていて
それが壁のレコードにも現れているのだと思った。


レコード屋の壁に飾ってあるレコードは
一般的に考えればほとんどが誰も知らないレコードだろう。
だが、
その顔ぶれというか
色合い、態度、空気感が社会を反映しているものは確実にある。


だから
今まで見向きもされなかった古いレコードが
急に脚光をあびたりもするし、
それまで飾り立てられていたレコードが
退場させられることもあって当然なのだ。


外とつながっていることを意識するからこそ
壁もいやおうなく変化する。
ぼくは壁が変化する店も好きだ。(この項おわり)


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このアルバムが
アナログで再発されたときのことを覚えている。


確か初回プレスは
あっという間に売り切れてしまい、
急遽追加プレスが行なわれたのだ。


CDは87年にポニーキャニオンで発売されていたが
そのときはまだ
時代を変えるほどの売れ行きにはほど遠かったはず。


ロジャニコの旬は
日本では93年に訪れたのだと思い出した。


このとき一緒に
セルジオ・メンデス&ブラジル'66や
クリス・モンテス、クロディーヌ・ロンジェ
アナログでプレスされた。


当時ぼくが働いていたレコード屋の店主は
「セルメンの再発なんて売れるわけないじゃないか」と
こぼしていたが、
結果的に言うと
ばかすか売れた。


90年代の洋楽で重要な10枚とか
その種の企画ではどうしても“新譜”であることが前提になるが
このアルバムを選んでしまえばいいじゃないかと思う。


そうしたらずいぶん
時代がすっきり見通せるはずだ。(松永良平


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