Ken Watts With The Swingin’ Gents / I’ll Share With You

Hi-Fi-Record2010-05-01

 先日、帰宅中の通勤電車の車内で、生まれて初めて席をゆずられた。


 つり革の右隣の女性が、彼女の目前の席に座っていた男性が立ち上がったところ、僕に目でどうぞと語りかけつつ、そっと体を引いた。
 こういうときに、どうしたらいいものか、いささか混乱した。いいえ結構ですというのもなんだか失礼だと思い、好意に甘えて着席した。そして、どうしてぼくは席を譲られたのだろうと考えた。
 大きめのL.L.Beanのトートバックを重そうにかかえていたからか、それとも白髪のためか、よほど疲れている風にみえたのだろうか、などとひとしきり考えた。
 譲ってくれた彼女は、ボクの斜め前に立っている。ボクとあまり年齢も変わらないように見受ける。ひとしきりまた、どうしてなのだろうと考えつつ、白髪のためなのかなと思い、降車駅のトイレで鏡に映る自分の頭髪を眺めた。


 白髪のミュージシャンのジャケットを探したら、あまり、というか、ハイファイの店内ではほぼ見かけなかった。松永クンによると、受けないからですよ、アメリカではヒゲとハゲはマッチョのシンボルですけど、白髪はねえ、とのことだった。
 そうなのか、なるほどとレコードを繰っているうちにで出会ったのが、これ。
 ヒゲもないし、ハゲでもない。きれいな白髪だ。レコードに針を落とすと、素敵に脂っ気の無い音楽。貫禄を売りにする嫌らしさもない。気持ちよく乾いている。


 ぼくには、まだまだ遠い世界だ。憧れはするけれども、遥かに遠い。
 むしろぼくにはヒゲとハゲが必要だ、欲しいものだと思った。(大江田 信)



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