Marian McPartland マリアン・マクパーランド / After Dark

Hi-Fi-Record2010-05-03

The Cool School 156 レコードの休む場所


その店の名前は
日本語にすると
“レコードの休む場所”。


まるで
レコードよ、安らかに眠れ
みたいな意味かと最初は思った。


CDやダウンロードに押されて
もうこの世での役目が終わったレコードを
大事に大事にさすっているような
レコードの老後を感じさせる店。


そういう後ろ向きなのは
好きじゃない。


しかし、
訪れてみると
その印象はすこし違っていた。


しずかな店内に整然と並ぶレコードには
丁寧にケアが行き届いているだけでなく
ちゃんと現代的な価値基準も加味してある。


その知的な静かさは
店主の人柄を表したものでもあるのだろう。
頑固な哲学者のような風貌が
レコードに囲まれた時間から
なにか“有”を生み出そうとしているように思わせる。


たとえばそれは
レコードというメディアをめぐる
お客さんとの知恵比べみたいなものだったりするのかもしれない。


「あれもいいぞ、これもいいぞ」と
熱心に商品を薦めてくるようなタイプとは
正反対の店主とのコミュニケーションは
最初はそっけないものだったが、
何度か通ううちにぼくたちを認めてくれたようで
それまで見たこともなかった笑顔を向けてくれるようになった。


「おまえたち、よくぞ
 わたしの出した難問を解いたな」と
頭をなでられているみたいな。


でもそれは
言葉の違う国から来たぼくたちが
勝手に壁を感じていただけで
実際はそんなに高いハードルでもなかったのかもしれない。


カウンターの横の壁を見ると
この店でアナログ・レコードを買ったお客さんを写した
ポラロイド写真が無数に貼付けられていた。


たしかその一番上には
「レコード文化を守る者たち」とかいう意味の
品のいいジョークが掲げてあったはずだが今は思い出せない。


また今度行ったときに
ちゃんと確認すればいいか。


この店の名前に使われている“休む”という意味の単語は“rest”。
この言葉には
ほっとひと息つくというような
ほがらかなニュアンスもあることを思い出した。(この項おわり)


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イギリス出身の女流ピアニスト、
マリアン・マクパーランドが
クラシック・ハープやチェロを含むアンサンブルで録音した名盤。


ゴールデンウィーク前半は
夜遊びしたり忙しく過ごしたので
ちょっと疲れの溜まったからだに
この音がちょうどいい。(松永良平


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