Children At The Center For Early Education / Read A Book

Hi-Fi-Record2010-05-05

The Cool School 158 子はかすがい


西海岸でお世話になっているディーラーが
テーブルを出しているレコード・ショーに
見慣れない少年がいた。


「息子なんだ
 こづかいをやる約束で
 レコード運びや店番を手伝ってもらってるんだ」


典型的なキッズ・アスリートふうに
短く刈り込んだ髪とがっしりした体格は
あんまりレコード好きの息子っぽくはないが、
よく見ると
目元に面影がある。


「息子はバスケットボールをやっていてね
 選手としてはなかなか有望なんだ」


何年かして
朝からディーラーの家を訪ねる機会があった。


なんでも昼から息子のバスケの試合があるとかで
ディーラーはその応援に行くことになっていた。


「しばらく家はおまえたちだけになるけど
 ま、いいよな。
 好きにレコードを見ててくれ」


そう言って
さっさと出かけてしまった。


その午後、
父と一緒に帰ってきた少年と
ぼくたちは再会した。


アメリカのこどもの成長は早い。
あどけなかったあの子は
もうすっかりおおきくなっていた。


ディーラーは目を細めながら
こんな話をしてくれた。


息子は選手として有望で
いろんなところに遠征をする。
その面倒を見るのは結構な出費なんだが、
そのついでに買付をしてくるんだという。


こないだは
おそらくディーラーたちもなかなか訪れないだろう
山奥の街まで試合で出かけたのだという。


あんなところにレコード屋があるのかと
ぼくたちは好奇心まるだしで訊ねた。


「2軒あった。
 でもそのうちの1軒はたいしたことない。
 すごかったのがもうひとつのほうさ。
 シングル盤が結構あって
 そこでおれはノーザンソウルのレア盤を2枚引き当てた。
 それがこないだイギリス人の客に
 800ドルと600ドルで売れたからな。
 もう遠征費用の元は取ったよ」


あっはっはっはと彼は笑った。


日本の古い落語に
「子はかすがい」というサゲの噺があるけれど
いやもうまったく
おそれいった。


“かすがい”とは
大工道具のひとつで
木材と木材をつなぎとめる特殊な釘のことだ。


この場合、
ディーラーの息子は
バスケとレコードを絶妙につないで
親と子のかすがいになっているってわけ。


あの子も
そろそろ大学に入るはずだ。
何かお祝いをしてあげなくちゃねと
今ひそかに考えているところ。(この項おわり)


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今日は子どもの日。


チルドレン・コーラスと呼べるほど訓練を受けてない
リアルこどもの合唱以前音楽をどうぞ。(松永良平


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