友部 正人 / にんじん

Hi-Fi-Record2010-05-06

 5月4日、大阪で開かれていた春一番コンサートで、友部正人三宅伸治のステージを聞いた。


 友部正人は三宅クンと紹介し、三宅伸治友部正人さんと敬意を込めてくり返し互いを紹介し合っていたことから、二人の関係を自ずと知らされた。申し訳ないことに、ぼくは三宅伸治という素晴らしいミュージシャンのことを、この場で初めて知った。


 なにしろ素晴らしいライヴだった。友部正人の作品を、二人でパート、パートで歌い分ける。伴奏はといえば、二人のギターだけ。ポジションを違えながら重層的にコードを重ね合わせて演奏され、ギターの響きの厚みが増している。そしてビートが立っている。その力強いビートに載せて、くっきりとした歌の言葉が吐き出されてくる。なにか口幅ったいことを言いたい訳ではない。とにかく涙が出るほどに感動したのだ。


 ものすごいビートと共に言葉が洪水のように溢れ出た「大阪へやってきた」も素晴らしかったが、ちょうど夕暮れ時に歌われた「一本道」に殺られた。
 阿佐ヶ谷駅の北口に屋台を出していたおでん屋のオヤジさんの顔のアップが用いられたアルバム「にんじん」に納められた一曲。実らぬ愛の葛藤が、若い日々のやるせなさと共に封印されている。

 
 1973年の発表当時に、くり返し熱心に聞いていた作品が、こうして一回り若い世代の三宅伸治と共に歌われることで、また違う風景を描き出していることに動かされた。そしてたぶんそれ以上に、ぼくの心のかさぶたがはがされたのだろう、20代のあの頃の匂いやざわめきが胸を突いたのだった。



 たぶん10年に一回くらいの割合で聞いて来たような気がするアルバム。スミからスミまで覚えているような気がしていた。
 どんな風に響いて来るだろう、もう一度、真っ正面から聞き直す気持ちになった。(大江田信)



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