Teresa Brewer / Texas Leather And Mexican Lace

Hi-Fi-Record2010-05-10

The Cool School 159 ガハハなひと


「そうそう
 あのおばちゃんだよ」


大江田さんが思わずつぶやいた。
中西部の大学街にあるレコード屋を訪れたときのこと。


その店構えは
レコード屋というより
馬具か何かを売っている方が似合いそうな
割と大きくて古そうな木造の物置小屋といった感じ。


中に入ると
店内は薄暗い。
しかし、レコードの数はそれなりに多く
棚は奥の方まで続いていた。


入り口のあたりに
腰に両手を当てて
ブロンドの女性が仁王立ちしていた。


細身のジーンズ
ダンガリーシャツ
これで頭にテンガロンハットでも被っていたら
間違いなく南部の女といったところ。
彼女がこの店のオーナーらしかった。


「グッイブニン!」


声も威勢がいい。
たぶん
彼女は外見と内面に一ミリの誤差もなさそうだ。


「あのおばちゃんがこの街のレコード屋を仕切っていてね、
 たしかレコードショーも
 彼女が中心になって切り盛りしていたんじゃなかったかなあ」


ぼくにとっては初めての街だが、
大江田さんは何年か前にすでに訪問済みで
そのときに会った彼女の印象が強く残っていたのだった。


困ったのは
お店のレコードにちゃんと値段がついているものが
少なかったことだ。


どうやらこのおばちゃん、
細かいことが苦手で
「何でも訊きなさい、
 最終的にあたしが値引きとか
 どうとでもしてあげるわよ」的な性格のようだ。


そういう愛すべき“がさつ”さを指して
大江田さんの口から
“ガハハな女”という形容詞が出た。


言い得て妙。


その後
いろんな局面で何度も聞くことになるその形容を
ぼくが聞いたのは
このときが初めてだった気がする。


9年前の秋だった。(この項おわり)


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実は
そのおばちゃんにはそれ以来お目にかかっていない。


イメージの中にある姿は
なんとなくテレサ・ブリュワーに似ているのだけど。(松永良平


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