Ahmad Jamal アーマッド・ジャマル / All Of You

Hi-Fi-Record2010-05-15

The Cool School 162 買付秘密兵器 その2


長い人生のなかで
実は一番時間をたくさん割いてるのは
仕事でも趣味でもなく
睡眠だという。


一日8時間でも3分の1、
6時間で頑張っているひとでも4分の1は
いやがおうでも割かざるを得ない。
生きるためでもあるんだし。


アメリカでのレコードの買付にも似たようなことが言える。
この場合は
睡眠よりももっとたくさん時間を割いているのは
店から店
街から街への移動時間になるだろう。


州をまたいで
次の店まで時速100キロのハイウェイで8時間とか。
それって決して珍しいことじゃない。


そういうときに
大敵となるのがスイマ。
漢字で書くと“睡魔”。


助手席に座るぼくに
大江田さんがうめくように言う。


「松永くん、眠いよ」


どうしても無理というときは
レストエリアにしけこんで仮眠を取るしかないが、
近くにエリアがありそうもないときは
なんとかしなくてはいけない。


そういうときに重宝するのが
まずはガムだ。
日本を出るときに空港で調達したタブレット状のガム。


これをしばらくクチャクチャとやる。
どうだろう、5分は効力があるかな。


その次に登場するのが
フリスクだ。
普段は口臭ケアのためというイメージが強いけれど
買付の場合は気付け薬として機能する。


とりわけ
ハッカ系に弱い大江田さんには一錠で十分。
これは15分くらいOK。


しかし
それでもダメになったらどうするか。


そのときは
ぼくがなぞなぞを出す。
ぼくのなぞなぞはたいていアホくさいダジャレが基本なのだが
根が真面目な大江田さんは
うーんうーんと小一時間はうなり続ける。
そうこうするうちに
レストエリアのひとつくらいは見えてくるものだ。


まあ
なぞなぞは携行出来ないから秘密兵器とは言えない。
フリスクは十分効果があるから
これを“その2”とする。


ちなみにその調達はぼくの役目。
ひとの気も知らずに助手席でぐうすか寝ることの多いぼくの
せめてもの罪滅ぼしなのです。(この項つづく)


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アーマッド・ジャマルのこのアルバムは
「エンジェル・アイズ」というスタンダードを収録している。


ひとが眠気を一生懸命こらえて
どうにか目を見開こうとしているとき
その目はまるでエンジェル・アイズみたいに
無垢なものになっている。


こないだ
深夜の酒場で
眠りこけそうな知り合いを見たときにも思ったことだ。(松永良平


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