Freddy Morgan フレディ・モーガン / Bunch・A・Banjos

Hi-Fi-Record2010-05-25

The Cool School 167 レコめし その3


モーテルからその店に行くには
長くて高い橋をわたって
海を越えねばならない。


ハンドルをにぎる大江田さんは
根っからの高所恐怖症で
橋が大嫌いときている。


しかし
その大江田さんをして
橋も高さも我慢させるほどだったのだ。
そのチャイニーズ・レストランの美味さは。


この3日間で
早くも3回目の訪問に
ぼくたちは向おうと橋をわたる最中だった。


もともとは
その近くにあるレコード屋に行くために
たまたま車を停めた場所の目の前にあった店という
ただそれだけの理由だった。


ひと仕事終えてからの腹ごしらえに
目の前の店に飛び込んだにすぎない。


ドアを開け
中に踏み込んだ瞬間
表からは想像していなかった
がやがやとした喧噪に囲まれた。


ジモティの白人黒人
そして中国人で
店はごった返していた。


お昼のピークタイムはとっくに過ぎているだろうに
この熱気。
これは期待出来る!


注文をして
届いた料理も絶品。
なんでもこの店は
上海料理に特化しているとかで
いわゆるアメリカン・チャイニーズ料理な平凡さがない。


「これは当たりだね!」


大江田さんが発したその賛辞はうそではなかった。


翌日、
買付を終えたふたりの意見は
「ちょっと遠回りになるけど、
 あの店で晩飯を食べてから帰ろう!」で
ばっちり一致したからだ。


調子に乗ったぼくたちは
その次の日も朝から
「ちょっと遠回りになるけど
 あの店でランチを食べてから買付しよう!」と盛り上がり、
長い橋を超えてやって来たのだった。


しかし、
どうしてだろう、
今日はあんまり感動がない。
あれほど素晴らしく感じられた味付けも
なんだか単調で代わり映えがなく思える。


そのとき
ぼくは思い出していた。


ぼくの実兄が子どものころ
給食のエビが好きで好きで
みんなからエビをもらって食べまくっていたところ
ある日突然
エビがまったく食べられなくなってしまったという話を。


似たようなエピソードは他にも聞いたことがある。


ぼくたちは興奮しすぎて
この店に対して持っていた許容量を
あっさり使い果たすところだったのかもしれない。


その後
その街に行くチャンスがなくて
しばらくご無沙汰したまま数年が経っている。


そろそろ
あの店の土鍋めしやヌードルが食べたいなと
書きながらよだれが出て来た。
無事に許容量は回復されているらしい。(この項つづく)


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橋をわたっていたとき
心の中ではたぶん
フレディ・モーガンの「チャイナタウン・マイ・チャイナタウン」が
流れていたような感じだったと思う。


あ〜。(松永良平


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