The Strand / The Strand

Hi-Fi-Record2010-06-10

 アルバムに収録の「Dirty Little Girl」を聴いていたら、見知った名前が出てきたような気がして、歌詞カードを見た。
 歌詞カードにはMOTEL SIXと書かれていた。


 モーテル・シックスとは、アメリカのチェーン・モーテル。
 その街のモーテルの最安値を設定して、それを大きく看板に記して集客している。


 初めて買付けに行った時に利用したのが、モーテル・シックスのチェーンだった。それからしばらくは、度々利用していた。ハイファイの先代が、モーテル・シックスの熱心な利用者で、譲り受けた買付けマニュアルが書かれた各地の地図には、必ずと言っていい程、モーテル・シックスの場所に印が付いていた。


 なんやかやとアメリカ入国が面倒になり、事前に宿泊先を航空会社に報告しなければならなくなった頃からは、全く利用していない。
 日本から予約が取れなかったからだ。今ではホームページも出来て、予約を入れることが出来るが、かつては電話でしか予約を受けていなかったし、日本に代理店もなかった。
 そのうちに、旅の事情になれてきた僕らは、少しはましなモーテルに泊まるようになった。

 
 しかし街の最安値だからと言って、宿泊に支障がある訳ではない。
 確かにシャワー・ルームに置かれた石けんは貧弱だし、用意されているタオルもふかふかしているとは言いがたい。カーペットも薄い。部屋の造作も安普請だが、テレビはちゃんとしている。
 二階に子供連れでも泊まろうものなら、階下には部屋の中を走り回る音がまるぎこえとなる。親が子供をしかる声も聞こえる。
 とはいっても、こうした騒音はモーテルではつきもので、よほど立派な造りのホテルにでも泊まらない限り、音は筒抜けだ。


 レコードをつめた段ボール箱を、部屋に持ち込み積んでいたところ、部屋のドアをノックされたことがある。ドア・アイをのぞくと、そこにはモーテルのフロント氏。どうしたのかと言えば、なにやら下の界のお客様が騒音にクレームしているという。もう少しお静かに願いますと、直接に部屋に言いにこられた。口当たりはやわらかいが、毅然とした態度のもの言いに、ぼくらは首をすくめた。
 確かに泊まるだけのモーテルだけれども、あの値段だったらモーテル・シックスもたまにはいいか、という気持ちになることもある。財布が軽くなっているときだ。だいたい6000円も出せば、二人一部屋に泊まれるはずだ。


 
 何処に泊まっているのかと店のスタッフに聴かれて、モーテルシックスと答えたら、ふ〜んといいながら、曰く言いがたい笑みを返されたことがある。それも一回ではない。
 その笑みの意味が分からなくて、現地に暮らす事情通の日本人に訳を聞いた。
 どうやら男女の密会に用いられることが多いらしい。そうなるとモーテルシックスなのだそうだ。アメリカには、その種のホテルは、無いのだ。
 どうもぼくらは、似たような同類と見られたらしい。


 そういえば我々の泊まっていたとなりの部屋に、身もあらわな女性がいた、それが窓から見えたと同行のスタッフから聞いたことがある。
 お探しの家が見つかりましたよ、という電話を受けた経験もある。それは別の人だよと答えたら、ぶつぶつ言いながら不動産屋は電話を切った。
 モーテル暮らしをしながら引っ越し先を探す客が、同室に泊まっていたのだろう。どちらもモーテル・シックスでの出来事だ。


 「Dirty Little Girl」に登場するモーテル・シックスは、その種の意味をはらんで使われているようだ。
 そうした方向の歌となると、教科書チックな英語ではないので、どうも僕にはよくわからないのだが、匂いだけは感じる。(大江田 信)



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