Panam North Stars / Panam North Stars
The Cool School 175 フリーマーケットのふたり その2
え？
あのフリマが火事に？
友人からもたらされたそのニュースは
ぼくたちを悲しませた。
ぼくたちにとって秘密の名店だった
年配の夫婦が営む週末だけのレコード屋は
いったいどうなってしまったんだろうか。
聞くところによると
火事の規模はそれほど大きなものではなかったらしいけれど
スプリンクラーが大々的に作動したこともあり
フリマとしての機能は失われてしまったのだそうだ。
大半の商品はみな
びしょぬれになってしまっただろう。
というわけで
営業再開のめどは立たないまま
時間ばかりがいじいじと過ぎた。
一年ほど経ったころだろうか。
友人から報せを受けとった。
前のフリマとは違う場所だけど
新しいフリマで夫婦を見つけたよと言うのだ。
それはうれしい！
早速そのフリマを訪れる日を軸に
渡米のスケジュールを立てた。
よく考えてみれば
夫婦は
レア盤に格別強いわけでもないし
ぼくたちだって山ほどのレコードを買うわけでもない。
でも何をおいても会いたくなってしまうのは
やっぱりぼくたちは彼らのような連中が好きだということなんだろう。
レコードが好きで
レコードを売って
ささやかなしあわせを手にしているひとたちが
自分たちのせいではない出来事で
それを失うのを見るのはいやだ。
彼らは
ネットオークションもやってない。
毎週末、
自分たちに会いにやって来るひとたちを相手に
レコードを売るのが好きなだけなのだ。
ひさびさに会ったというのに
彼らは笑顔で握手をしてくれた。
前の店よりもずいぶんスペースは小さくなったし
ログハウス風の外装もない。
だけど
彼らはまたレコードを売ることが出来ることを
とても喜んでいた。
「“トランスポーテーション”のコーナーはまだ？」と訊くと
「そのうち復活させるさ」とおやじさんは笑った。
めでたく復活したときは
「トランスポーテーション」の棚から
何か一枚は買わなくちゃね、絶対に。（この項おわり）
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
スティールパン軍団の背後に見えるのは
今はなきパンアメリカン航空の機体。
こういうレコードも
当然「トランスポーテーション」棚行きに決まってる。（松永良平）
