Werner Muller And His Orchestra / East Of India
ポリドール在籍時のウェルナー・ミューラー作品ということは、1958年以前に発表されたアルバムということになる。
中身のユニークさはちょっと横において、ジャケットを眺めながらふと面白いと感じることをいくつか。
まずアーチスト表記が英語になっていること。
本来であればWerner Muller Und Sein Orchestra(uはウムラウト)と表記されておかしくないところが、英語で書かれている。しかもアルバム・タイトルも英語。
そのほか裏ジャケットに書かれた簡単な解説も、曲目も、レコードを熱から遠ざけるようにという注意書きも、すべて英語で書いてある。
これがドイツ国内に出回ったのだろうか。それとも、もしかしてこれは英語圏に輸出用のレコードだったのだろうか。そもそも英語圏に輸出するレコードという発想が、この時点であったのだろうか。
そしてもう一つ。
それぞれの楽曲のアレンジャー名がクレジットされていること。
おや?と思われる方がおられるかもしれない。ウェルナー・ミューラーがアレンジしていないの?と。
そう、ウェルナー・ミューラーが、全曲をアレンジしている訳ではない。
全12曲中、彼がアレンジをしているのは4曲。残りはギタリストのアーノ・フロールのほか、恐らくはオーケストラのメンバーと想像されるスタッフにアレンジを委ねている。
それぞれがウェルナー・ミューラーの意を汲んで、十全なアレンジを施した。どのアレンジも、アルバムのトータルを構成するパズルのピースの役をきっちりこなしている。
この時代のイージー・リスニングのアルバムでは、収録曲のアレンジ・クレジットが記されないことがほとんど。
こうして詳細が書かれている方が、珍しい。
ウェルナー・ミューラーが優れた音楽家であること、感服すべき点が多々あることは、音楽を聴けば聞くほどに感じることだ。
演奏がよくコントロールされていること、そして演奏のテンションが高く張りつめていること、アンサンブルとソロのパートの対比が実に見事で、その意図に演奏家が真っ正面から応えていることなど、他の同種のアーチストの演奏と比較することで、改めて強く感じることだ。
そして同時に、このところよく考えることは、ウェルナー・ミューラーの音楽ビジネスマンとしてのあり方だ。
例えばこんな事実がある。
フランス・ギャルのドイツでリリースされた1960年代後期のシングルはドイツ語で歌われている。バックの演奏はウェルナー・ミューラーのオーケストラ。
そのすべてではないけれども、何枚かのシングルでB面の曲を書いていたのは、ウェルナー・ミューラーだった。作家のクレジットには、ウェルナー・ミューラーとは書かれていない。ハインツ・ブッフホルツと記される。じつは、ハインツ・ブッフホルツとは、ウェルナー・ミューラーの本名である。
リカルド・サントス、ウェルナー・ミューラーの名前の設定そのものも、彼の音楽ビジネスマンとして優れたセンスのなせる技なのかもしれないと考え始めている。
大江田が監修・選曲・解説を担当したウェルナー・ミューラーの4枚組CDボックスの発売は明日。
ウェルナー・ミューラーを聞きながらおしゃべりを楽しむ会は、今日これから。そろそろハイファイを出て会場に向かう準備を始めます。(大江田信)
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