ダグ・オーウェン Doug Owen / From The Start

Hi-Fi-Record2010-07-05

The Cool School 182 セマイエスト・ショップ・イン・ザ・ワールド


「この街に来たのなら
 あそこの店は行った方がいいよ。
 穴場だからさあ」


そう別の店の店員に言われ
何よりの地元情報だと喜んで
ぼくたちはその穴場によろこびいさんでかけつけた。


広い道をゴーゴーと車がすごい勢いで通り過ぎる。
さびれかけた倉庫街といった印象だった。
教えてもらった住所は
空き地のように見えたのだが
近付いてみると小さな倉庫がぽつんと建っていた。


家や倉庫はでかくて当たり前のアメリカ社会からすると
この規格は相当に小さい。
中は6畳ぐらいしかないかもしれないし、
だいいち看板も出してない。
しかし
周りに車が何台か停まっているし、
どうやらこれは、ぎりぎりで“店”なのだろう。
そしてなかにはレコードがあるのだろう。


扉を開けておそるおそる中へ。
うわ、狭い!


狭いというのは単に敷地面積の問題だけじゃない。
6畳というのはオーバーかもしれないが
広く見て8畳ぐらいのスペースしかない。


しかもそこに
裏表両面にレコードを縦並べした棚が3列。
脇の空いたスペースにはレコード箱が積み上げられている。
ひとの通れる隙間は50センチくらいずつしかないのではないか。


そしておどろくことに
そのわずかなスペースは先客でいっぱいだった。


箱庭暮らしの東京で
狭いという感覚には慣れていたつもりだったが
ぼくの感覚は甘かった。
すごい密閉感。
閉所恐怖症には堪えられないだろう。
それにこの店、
店員はどこにいるんだ?


「エクスキューズミ……」と謝りながら
店の一番奥までたどり着いて
もう一回おどろいた。


そこには半畳ほどのカウンターがあり
そのなかに年老いた店主と思しき人物が座っていたからだ。


あのひと、
どうやって外に出るんだ?


そのときぼくは
学生時代にバイト先の先輩に連れられて入った
今にも倒れそうな日本家屋で
「お茶漬けの店」というのれんを提げて営業していた一軒の店を思い出していた。


なかに入ると、
客がふたりくらい座れるカウンターと
その奥に人間ひとりがからだを動かせるくらいのスペースで
おばあちゃんがひとりぽつん。


先輩とは顔見知りのようで
何も頼んでないのにビールとおしんこが出てきた。


よせばいいのに
「あのお……、お茶漬けは?」と訊ねたぼくを
おばあちゃんはからからと笑った。


「そんなのあるわけないじゃない!
 見ればわかるでしょ!」


……ああ、あれだ!
あの感じに似てる。
あんな店がアメリカにもあったぞ。


ということは
「いいレコードありますか?」なんて訊いたら
「あるわけないだろ!」と
やっぱり笑い飛ばされてしまうのだろうか。


さて実際はどうだったっけ。
何を買ったのか忘れてしまったけれど
これがぼくがアメリカで体験した
もっとも狭い店の話。(この項おわり)


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今日も東京は
曇っているのに蒸し暑く
夕方からは雨もぱらつくという天気。


どうせ降るなら
しゃきっとしてくれないか。


でも
ダグ・オーウェンの「Rainy Day Lady」みたいな曲は
今日みたいな気分の日にもよく似合う。


ジャケ写はどうかしてると思うけど
中身は甘酸っぱくて最高です。(松永良平


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