David Cassidy / Dreams Are Nothin’ More Than Wishes

Hi-Fi-Record2010-07-06

The Cool School 183 夢の家


半年ほど前に
こんな話を書いた。


そのときに登場したディーラー夫婦が
念願叶ってお店を開けたという報せが届いた。


早速かけつけてみると
それはお店というより一軒家をふたつ棟続きにしたような建物で
道路に面した方の家を店にして
夫妻と息子は奥の方の家に住んでいるらしかった。


店とは言え
もともと家だから
玄関を開けて入ると
部屋が3つほどあって
そのそれぞれにレコード棚が置かれているという構造。
レコードは彼の趣味を反映し、
どれもレアで
なおかつ得体の知れないオブスキュアなものが多い。


壁にはディーラーのもうひとつの趣味である
これまたレアでヒップな古本がずらりと並んでいる。
壁を飾るポスターのセンスにも抜かりはない。


一緒に行ったアメリカの友人がため息をつきながら言った。
「これはおれにとっては夢の家だな。
 ここに住みたい。
 家になんか帰りたくないよ」


それから数年は
その店は絶好の買付ポイントになった。


ところがある年、
店を訪れようと思い電話すると
「今は事情があっておおっぴらに営業が出来ないから
 何時に来るとアポを取ってから来てくれ」と言う。


おそるおそる訪ねてみると
確かにドアには鍵がかけてあった。
開けてもらって入ったが
彼らの雰囲気はくらい。


「実は店舗として営業する許可をちゃんと取っていなかったんだ。
 それなのに結構客がいるもんだからねたまれてね。
 警察に告げ口されたというわけさ」


夢の家にもいろいろ大変なことがあるのだと知った。


さらにその翌年、
今度は営業許可が下りていたものの
別の事情で店はくらかった。


どうやら商売が思わしくないらしいのだ。


雑談しているうちに
ぼくたちの大好きな東海岸のあるレコード店の話になった。
そのとき彼はちょっと不機嫌そうに
「あの店は確かにでかいかもしれないけど
 どこにでもあるようなものしか売ってないじゃないか。
 おれは買うものが一枚もなかったよ」


ミステリアスなレコードを追い求めるあまり
彼はこのとき
普通のものを普通に売るという商売の基本を
とっくに見失っていたのかもしれない。
気がつけば
かつてレコードでいっぱいだった部屋は
ひとつはがらんどうになり
ひとつは雑然と散らかったままになっていた。


去年
彼の店を訪れたとき
家の中はくらいままで
ひとの気配はしなくなっていた。
電話もずっと不通になったままだ。


あのとき
確かにあの家には夢がいっぱい詰まっていたのに。


ちょっと胸が痛くなるこの話は
最近ようやく書く決心がついたところだった。(この項おわり)


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犬ジャケとしても
とても人気のあるこのアルバム、
「夢」にまつわる名曲を多く収録した作品でもある。


夜に見る夢ではなく
ひとが何かを願うという意味での夢。
そんな夢の
甘くて苦い感じが詰まっているのだ。(松永良平


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