Dion ディオン / Streetheart

Hi-Fi-Record2010-07-09

The Cool School 184 夜中の合戦


朝からたくさんの店を回り
思いがけずいろんな収穫があり
買った枚数もたくさん、
へとへとになってモーテルにたどり着く。


疲れているし
夜も遅いから
今日はもうビールと冷凍食品で済ませてしまおうと
ぼくも大江田さんも寝る支度をはじめる。


それなのに
テーブルの脇に置いてある
今日買ったレコードの箱を
大江田さんがちらちらと見始めた。


そして
何やらたくらんでいるような笑みを
えへらえへらと浮かべて
一枚のレコードを引っ張り出し
ポータブル・プレーヤーに乗せる。


「松永くんに聴かせたい曲があるんだよ」


来たな!
ぼくは身構える。


買付の終った晩、
とりわけ良いレコードを買えた晩、
この時間帯は必ず訪れる。


良い音楽を分かち合ってお互いにクールダウンしようということではない。
これは一種の戦争だ。
お互いに切り札を出し合って
どちらかが「負けた〜」と音を上げるまで
キラーチューンを聴かせ合う泥仕合なのだ。


このレコード合戦を勝ち抜く条件は
負けず嫌いであること。
そして
おとなこどもであること。


音楽に詳しいから闘いに勝てるとは限らない。
むしろ知識を頼っていたら
先手を取り損ねる。
これは
今日見つけて今日興奮した今日の音楽を
どれだけホットに差し出せるかという反応勝負なんだから。


最近は
大江田さんとふたりというコンビで
買付に出かける機会が減ってきて
この夜中のレコード合戦も
ちょっとご無沙汰している気がする。


ほかでもない。
このレコード合戦に負けたくなくて
ふたりは買付をしているようなところがある。


身近な友は
一番の敵。
実はそれがハイファイの買付における
一番の企業秘密なのかもしれない。(この項おわり)


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ディオン、76年のアルバム。


ここに隠れている名曲「モア・トゥ・ユー」。
これはレコード合戦で勝てる曲。


大江田さんが
がーんとのけぞって
お酒を悔し紛れにぐびっと飲んで
ほろほろ〜と崩れ落ちる姿見えます……なんてね。(松永良平


試聴はこちらから。