Art Garfunkel アート・ガーファンクル / Watermark

Hi-Fi-Record2010-07-22

 BS-TBSで放送されている「吉田類の酒場放浪記」が好きだ。


 「仏教美術に傾倒し、シュール・アートの画家として活動、パリを起点に渡欧を繰り返す。後にイラストレーターに転身し、90年代からは酒場や旅をテーマに執筆を始める。俳句愛好会を主宰。酒場と酒場をめぐる人間模様をテーマにした著作多数」と紹介される吉田類


 その彼が東京近郊の酒場をめざし、近隣を散歩したのちに店に入ると、店内の客人と会話を交わすという、それだけの番組なのだが、そこがいい。もちろん店の紹介、酒の紹介やつまみの紹介がある。店主の紹介もある。店の歴史もさりげなく盛り込まれる。決して割烹などと呼ばれる場所を訪ねることはない。毎回、ほぼ大衆酒場を訪問している。そして番組の最後に吉田さんが、俳句を詠む。これが、なかなかに気分を出している。
 数年前までは毎日の朝夕に15分ずつ一軒分が放送され、それらをまとめたものが週に一回、夜の時間帯で放送されていた。
 毎日、こちらはぼんやり朝食をとりながら吉田さんが酒を飲む様を眺めていた。
 

 いつごろからか放送が夜だけになってからは、ついぞご無沙汰をしていた。
 先日、当家のテレビが無事にデジタル対応となったことを機に、そういえばと今度は毎週の放送をハードディスクに録画し始めた。そして幸せなことに、今ではこちらもビールを飲みながら夜の適当な時間帯に、番組を眺められることとなった。週に二回は吉田類さんと、ブラウン管を通して酒を酌み交わしている。


 ところで、なにが気になるって、この番組の選曲が気にかかる。特に冒頭にかかる一曲が、問題だ。
 ついこの間は、イーグルスの「オール55」がかかっていた。トム・ウェイツではなくて、イーグルス。その前には、ニューシーカーズの「愛するハーモニー」がかかっていた。
 ごく一般的に知られている著名曲が選曲される訳ではない。50代くらいの世代、かつてそこそこマニアックだったポップ/ロック・ファンの耳に、懐かしい曲がかかる。あれ、この曲なんだっけと少し考えさせる曲のことが多い。懐かしいけれども、すぐには出てこない。物忘れが始まっている50代には、これはちょっとつらい。でも、ま、いいか、とはいかない。のどにひっかかった、なかなかとれない魚の小骨のような気分。いかにもズルい選曲なのだ。
 
 
 すぐに曲目がわかるときは、いい。わからない時はここで、ひと格闘する。そのうちに吉田さんは街を歩いている。あっ、そうか、あの曲かとわかった頃には、吉田さんが店ののれんをくぐっている、なんてこともある。
 一種のゲームなのだろう。番組が投げかけている小さな謎解き。その手に乗るものかと見ているはずなのに、しばらくするとそっくり制作者のペースにはまって、曲名を考えたりしてしまう。悔しい。


 いかにもこの番組で選曲されてもおかしくない一曲。アート・ガーファンクルが歌う「Wonderful World」。
 変化球の好きなあの番組の選曲者だったら、サム・クックはかけないで、こちらを選ぶと思うんだがなあ。(大江田信)



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