Nick Lowe ニック・ロウ / Labour Of Love

Hi-Fi-Record2010-07-30

The Cool School 193 共生関係


にぎやかな街の中心部からは
すこし離れているが
そのビルには昔
何軒かレコード屋があった。


1階には
チェーン店ながら安いLPをたくさん置いている
なかなか捨て置けない店が。


3階には
この界隈で数十年ビジネスをつづけているという
由緒ただしい名門店が。


ところが
この名門店が数年前に方向転換。
完全に通販専門に鞍替えするということで
店のスペースは残してあるものの
来客をほとんど受け付けないタイプの店になってしまった。


一度
何とかレコードを見せてくれないかと
熱心に頼み込んでみたこともあったのだが
じゃあそれならと店主がくれた返事は残酷なもの。


「おまえたちの欲しいレコードを言ってくれ。
 それを取ってきてやるから」


おいおい。
それじゃあ意味がないんだ。
レコードを“買う”だけだったら日本から通販でやればいい。
ぼくたちがしたいのは
レコードを“探す”ことなんだ。


おまえたちの言ってる意味がわからないねと言わんばかりに
店主は首をすくめてきびすを返した。


それからはもう
その店には二度と行くもんかと
こちらも意地になり
そのビルを訪れても
いつも1階の安レコードばかりを漁って帰るだけにしていた。


その近所に住む友人のディーラーが
しみじみと言った。


「あの店は昔は路面でやっててね
 いい店だったんだけどなあ」


どこでそのポリシーが変わってしまったのか
ひとの心はわからない。


先日ひさびさに訪れてみたら
3階はもぬけのからになっていた。
さらに1階の店も
撤退してしまったらしい。


案外
3階で苦虫を噛み潰すような思いをした
ぼくたちみたいな客の憂さ晴らしで
1階の店もうまくいってたのかな。


好対照な店にも
相互に依存した
共生関係があったのかもしれない。(この項おわり)


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このブログを
女性シンガー・ソングライターbice(ビーチェ)さんの
訃報を知った直後に書いています。


新譜ではないですが
ぼくは今年
彼女が10年ほど前に出した洋楽カヴァー集「covers」を買い、
ときどき聴いていたのでした。
DJでもかけたことがあります。


パイロットの「バッド・トゥ・ミー」を採り上げるセンスは
なかなかないものですよ。


そのCDの一曲目が
ニック・ロウの「恋する二人」でした。


ご冥福をお祈りします。


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