John Simon / Last Summer Theme

Hi-Fi-Record2010-08-11

 映画「太陽がいっぱい」の最後のシーンは、忘れようにも忘れられないものとして、記憶に残っている。
 アラン・ドロン扮する田舎者のトムが、フィリップからひどい屈辱を与えられたのち、フィリップを殺害し彼に成り代わる一連を見てきた観客が、どこかしらトムへの共感を抱いていた自分に気づかされる一瞬でもある。


 「太陽がいっぱい」について改めて調べていて、有名なテーマ音楽は、完全犯罪が水の泡となるあのラスト・シーンから初めて流れ出すことを知った。
 それまで一度としてメロディは、画面に登場してこない。エンドロールを見ずして席を立った観客は、充分に主題曲のメロディを聴かずして劇場を出ることになる。


 そしてもう一つ、こちらは始めて知ったことだ。
 1960年の公開当時、主題歌に人気が集まったもののサントラ盤が無く、代わりに発売されたフィルム・シンフォニック・オーケストラのレコードがヒットしている。ラジオなどで今でも時おり聴かれる同曲は、ほぼこの演奏だ。また映画音楽を集めたアルバムにも、こちらが収録される。よほど多くの人の耳に残っているからなのだろう。
 このフィルム・シンフォニック・オーケストラとは、レコード発売するために急遽集められた日本人プレイヤーたちの覆面オーケストラだった、とは聴いたことがあった。
 それがこのほど調べていて解ったことは、日本のタンゴ界の第一人者、北村維章指揮によるスタジオ・オーケストラだったという事実だ。音楽評論家の浅井英雄さんが、自著「ムード音楽」に記しておられた。


 "北村維章 フィルム・シンフォニック・オーケストラ"と検索窓に記入してネットでAND検索しても、このふたつが同時に書かれたテキストは、一件も無い。関係者によほどの箝口令がしかれたのか、それともそこまで関心を示すものがこれまでいなかったのか。
 フィルム・シンフォニック・オーケストラを、今でもサウンド・トラック専門のオーケストラと思っている向きも少なからずおられるようで、時おり同名義のアルバムを買ってみたらオリジナルと音源が違うと怒っている記述を見ることもある。「太陽がいっぱい」によって生まれた知名度を利用して、様々な映画の主題曲を演奏したアルバムが、過去に発売されているからだ。
 それにしてもよく隠し仰せたものだとも思う。
 筒美京平扮するところのDr.ドラゴン & オリエント・ エクスプレスや、もっと古いところではフォーク・クルセダーズ扮するザ・ズートルビーなどのネタばれしてもともとの企画に比べれば、フィルム・シンフォニック・オーケストラの場合は、決してばれてしまってはいけなかった時代の産物なのかもしれない。


 サウンド・トラックのレコードは苦手だ。それぞれに曰く言いがたいウンチクがあることが当たり前のようで、どうも近付き難い。自分が決してマニアックな音楽好きではない、その証でもあると思っているのだが、そのくせこの映画はテレビで見た。偶然のことだ。フリスビーで遊ぶ男女が映し出される冒頭シーンを記憶しているのだが、詳細は定かではない。映画を見る前に、サントラ盤を持っていた。(大江田信)


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