Jeannie Thomas ジーニー・トーマス / Sings For The Boys

Hi-Fi-Record2010-09-09

 名曲の誕生秘話というものがある。
 例えばグルジアの国民的な画家、ニコ・ピロスマニ(素晴らしい画家!)がフランス人女優マルガリータを深く愛することを示すために、彼女の泊まるホテルの前の広場を花で埋め尽くしたという伝説に基づいた「百万本のバラ」。
 イタリアのソレントの街を著名な政治家が訪れる際に、来賓としてもてなすために宿泊先のホテルの社長が依頼して出来上がった作品が「帰れソレントへ 」。そのおかげで政治家の訪問の後には地元に郵便局が建てられた。
 とか、とか。


 どこまで本当かはわからない。
 今の言葉で言えば都市伝説、というのかもしれない。うわさとか伝承とか、口伝えとか、そんな言い方が似合うのかもしれないが、たぶんそうしたストーリーには人々をしてうなずかせる何かかがあるのだろうと思う。



 「スターダスト」にまつわる物語が、いい。
 作者は、ホーギー・カーマイケルと大学時代の友人のミッチェル・パリッシュ。歌が作られたのは1929年だ。


 自身の出身母校のインディアナ大学を訪れたカーマイケルが、結婚が叶わなかったかつての恋人、ドロシー・ケイトのことを思ううちにふと口ずさんだメロディを、近くのカフェのピアノを借りてまとめたものという。

 
 遠くへ行ってしまったあなたを想うと、恋は昨日の空の星屑のようだと歌われる。
 どこが好きって、近くのカフェのピアノを借りて曲をまとめたという一節がいい。どんなカフェだったのだろう、ホーギー・カーマイケルが店に入っていった際には、店に客はいたのだろうか、店の主人も客達もホーギー・カーマイケルのことを、作曲家とわかったのだろうかなどと、つい想像する。


 そんなことをつらつらと考えながら聴くには、こういう「スターダスト」がいちばん。ロマンチックで端正で、美しい。素晴らしいヴォーカルだと思う。(大江田信)
 


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