Little Esther Phillips / Release Me
リリース・ミーの歌詞を読むと、あまりの率直さに驚く。
あなたのことは、もう愛していない。だから自由にさせて。これ以上に無駄な時間を過ごすのは罪なこと。新しい恋をさせて。他に愛する人が出来たの。いつもそばにいたいの。あなたの唇が冷たい時、あの人のは温かい。だからもう自由にさせて。
こんな調子のカントリー・ソングだ。
カントリーの世界では、家族グループ、あるいは夫婦の形態を取りながら女性がメンバーに参加している場合はあったものの、ソロ・シンガーの登場が他ジャンルに比べて遅かったとする記述を呼んだことがある。
女性は家にいるものといった因習に従う思想を持つ保守層を対象としているカントリーだからこその様相だ、という。
正しいものかどうか確かめて見る必要があるとは思いつつも、もしかするとそうなのかもしれないと思わせる説得力があった。
リリース・ミーが書かれたのは1946年。幾人かの男女のカントリー・シンガーが歌ったがヒットすることはなく、黒人女性シンガーのリトル・エスター・フィリップスの歌唱でR&Bチャートで1位、ポップ・チャートで8位のヒットになった。1962年のことだ。
リリース・ミーは、女が男に歌いかける曲だ。とあるレストランの後ろの席で交わされている実際の会話を基にして、作詞されたという。
言われる通り、女性は家にいるものと思われているカントリーの世界ではなかなかヒットせず、60年代という自由の風が吹き始める時代になって、やっとヒットの目が生まれたのか。
それとも、背徳の香りがする歌だからこそ、社会から遠ざけられたのか。
いろんなことが想像される。
ヒット曲を生み出す聴衆はどんな気持ちで、この歌を聴いているのだろう。自由にさせてとくり返す彼女に共感しているのだろうか。
それにしてもこんなセリフ、女性から面と向かって言われたら、男はたまらないと思うのだが。(大江田信)
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