The Ronettes ロネッツ / Baby I Love You

レコードショーは
ディーラーとマニアが集って売り買いをするだけでなく
レコード文化にまつわるお祭り的な側面もあるので
レジェンダリーなスターが呼ばれて
パフォーマンスやサイン会をすることがある。

10月にニューヨークのレコードショーに行ったとき
ゲストスターに
ロニー・スペクターと
クリスタルズのララ・ブルックスが呼ばれていた。

この日のロニーはごきげんがよかったようで
DJがロネッツのレコードをかけたら
それにあわせて歌い出した。

予定にはなかったファン・サービスという感じで
さわりをさらっと歌っただけだったが
フィレスのシングル盤に刻まれたそのままの声が飛び出して
その場に居合わせた者はみな度肝を抜かれていた。

今もあんなにいい声（しかも声量がハンパ無くでかい）が出るのなら
数年前に来日したときに
見に行かなかったことが悔やまれた。

ところが
彼女が
ぼくらの目の前で
どの曲を歌ったのか
なぜか思い出せない。

声と存在の“そのまま”感の衝撃がでかすぎたのと
一曲聴くだけでロネッツの全曲を味わってしまったような
しあわせな錯覚を彼女が与えてくれたからではないかと思う。

しあわせすぎて
記憶喪失になってしまったのだ。

フィレスのオリジナル・シングル盤にあわせて
ロニー・スペクターに歌ってもらう。
おそらくそれは
直筆のサインをもらうよりもずっと
ぜいたくな体験だったはずだ。

4、5回まわってニャンと鳴く　その33　松永良平