Chris Montan クリス・モンタン / Any Minute Now

Hi-Fi-Record2010-11-25

 ある種のAORを聴く際のファンの態度に、"泣く"というのがある。
 「この曲、泣けるよなあ」というのが、最良の褒め言葉になることがある。


 ぼくが学生の頃だから、もう相当に前のことになるのだが、泣けるほどのいい曲と評したのちに、「おっとっと、泣いちゃいけねえ、こちとら男だ」と記している文章を読んだことがある。とある評論家の方のレコ評の一説だった。
 文章の隅々まで正確になぞることはできないのだが、執筆された方の名前はくっきりと覚えているから、あながち間違っている記憶とも言えないだろう。何回か、この種のフレーズを使っておられたと思う。


 ふ〜ン、男は泣いちゃいけないだ、その通りだなと、ボクは思った。あくまでも音楽を聴く時の比喩のはずなのだが、それまでの生活のなかでなんとなく身につけた態度の取り方と響き合うものがあったのだろう、泣き出しそうになっても、男とは見栄を張ってそれをこらえなくちゃいけないんだと、妙に神妙な気持ちで同感した。


 泣けるAORの場合、切々と泣かんばかりに歌う男のうたを聴いて、大の男たちが泣けるよなあと、シミジミ声をもらす。女性シンガーの歌を聴いて、泣けるよとは言わない。泣かんばかりに歌う男性シンガーのうたを聴き、女性たちが泣くことも無い。男たちが泣くのだ、おもしろいことに。


 どうしてこういう心理メカニズムが生まれるのか、よくわからない。 
 もちろん今になれば、先の評論家の方のコメントも、照れ隠しを込めた文章のレトリックであり、いわば「オレは泣いてしまったぜ」と語っているに等しいこともわかる。
 もしかして男の歌を聴いて泣いている男の姿って、端から見て気色いいものではないのだろうか。J-Popでもそういう風なうたと、そういう聴取態度ってあるんだろうか。


 ぼくもAORを聴いて、泣くことがある。
 たとえばこんなアルバムだ。(大江田信)



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