Kenny Rankin / Knowing I Won’t Go Back There

Hi-Fi-Record2010-11-28

ケニー・ランキンは
アルバム・デビューをする前に
結構な数のシングル盤をリリースしている。


50年代末を引きずったポップシンガー然としたデッカ時代はともかく
アーティストとしての自我と
作曲家としての可能性がおおきく目覚めた
コロムビア時代の傑作シングル群については
まとめて復刻出来ないものかというファンの要望が今なお強い。


特に強力なのは
1966年にリリースされた一枚で
「Haven't We Met」と
「In The Name Of Love」のカップリング。


どちらも後年
本人によってリテイクされているが
このオリジナル・ヴァージョンからほとばしるみずみずしさには
格別なものがある。


もっとも
生前の彼はそのみずみずしさを
良いものだとは見なしていなかったようで、
後年
その時代のことを問われて
いい顔をしなかったという話も聞いたことがある。


だいたい
マーキュリー時代の名曲「Peaceful」ですら
のちに録りなおしているし、
シングル「Why Do Fools Fall In Love」に至っては
一度発売してから
さらに“Remix”と銘打った改訂版をリリースしているのだ。


相当に自分の作品に対する要求が厳しいひとだったのだろう。


その割に
一度だけ見た来日公演での彼は
自由な芸術家そのもので
ギターもピアノも歌も
細かいことなど気にしないよとばかり
本当にのびのびとやっていた。


今の自分だけが好きだってことなんだろうな。


それもまた
芸術家が取る態度としては
理解ができる。


亡くなってしばらく経つが
まだコロムビア時代の作品にだれかが手を付けたとは
聞かないな。


こうして
彼の姿を思い出しながら文を書いていたら、
そのままこの時代の音源があらためて世に出なくても
それはそれで
きちんとした追悼になっているんだという気もしてきた。


4、5回まわってニャンと鳴く その39 松永良平