Hal Aloma And His Orchestra / Lure of the Islands
収録の「Pretty Maui Girl」は、ワイカプに暮らす可愛いマウイの女の子のことを軽妙に唄った作品。伝統的なトラディショナルで、作者不詳とされている。
日本では古く戦前にアンディ・アイオナのSP盤が発売され、これが古くからのファンのスタンダード。
オリジナルは3拍子のワルツらしい。このハル・アロマのアルバムでは、4拍子のスインギーでジャイヴ感覚によるアレンジが施されている。
残念ながらアンディ・アイオナの演奏は聴いたことが、彼もジャズを織り込みながらハワイアンを演奏した人だったので、おそらく4拍子を用いた演奏だったのではないかと思う。
ハワイアンがジャズに接近したのは、観光客を楽しませるため、あるいはアメリカ巡業をするミュージシャンが仕事を得るため。または同時代的な音楽としてハワイアンを装わせるため、ミュージシャンとして生きる術を得るため、ジャズが時代のメインストリームだったから、これはそのすべてが当てはまるはずだ。
伝統的な音楽には、伝統を内に秘めつつ衣替えをしたいとする力と、伝統を守ろうとする力とがふたつ同時に働いている。
ハワイアンの場合は、伝統を守ろうとする意図の元に録音された音源がはっきりと顕在化するのは、1970年ごろからのこと。ポピュラー音楽としてカタチを成している音源から録音が始められたこともあり、伝統的な音楽がどのようにして衣替えして行ったのか、その時系列をたどるのはちょっと難しい。もちろん残されたリアルな音源が皆無ではない。しかし、ハワイアンの音楽史をたどるには、いささか想像力が必要になる。
アンディ・アイオナの演奏は、ジャズと交配したハワイアンの最良形を楽しむことが出来るもの。この後の彼の足取りを追っているうちに気付くのだが、相当にジャズに軸足が傾いているアルバムだ。その傾き具合が、時代を物語るものとなっていると言って良いだろう。(大江田信)
試聴はこちらから。